エネルギ-政策研究所長 山家公雄
前回の続き、そしてPJM改革の全体像
本「AIデータセンターと米国電力システム」シリーズ第8回では、PJMが7月27日に示した大規模需要対策を取り上げ、IRAS(Interim Resource Adequacy Service;暫定供給力確保サービス)、RBP(Reliability Backstop Procurement;供給力バックストップ調達)、Large Load Registry(大規模需要登録簿)などの具体策を紹介した(PJM、AIデータセンターを先行遮断へ|IRASが問う信頼性と公平性 | エネルギー戦略)。
その後、IRASは8月13日にFERC(米国連邦エネルギー規制委員会)へ正式申請され、RBPも7月31日に正式な提案として提出された。9月に入ってからは、PJMの独立市場監視者(IMM)であるMonitoring Analytics社からIRASに対する異論も示されている。
PJMの改革は、「提案」の段階から「制度化・実施準備」の段階へ進みつつある。もっとも、IRASやRBPだけを見ていると、PJMが何を改革しようとしているのかが見えにくい。これらは、PJM改革全体の一部分だからである。
そこで今回は、前回記事の続編としてIRASとRBPの現在の位置付けを確認するとともに、これまで個別に取り上げてきたPJMの改革を、4つの柱に整理してみたい。
PJMが直面しているのは、単にAIデータセンターをどう接続するかという問題ではない。発電所をどう早く系統につなぐか。大規模需要をどう接続し、どう系統を利用させるか。必要な供給力をどう確保するか。そして、それらを支える送電網をどう整備するか。これらが相互に関係する、電力システム全体の問題なのである。
PJM改革は「4本柱」で見ると分かりやすい
PJMの改革を大きく整理すると、次の4つに分けることができる(図1)。
図1.PJMの電力システム改革

(出所)PJM資料を参考に筆者作成
この4本柱は、必ずしもPJMが公式に「4本柱」と分類しているものではない。これまで発表されてきた制度改革を、電力システムの機能別に整理したものである。
①は発電側の改革である。発電所を計画し、系統へ接続するまでの時間を短縮する。PJMでは発電接続キューの改革や、EIT(Expedited Interconnection)のような取り組みが進められている。
②は大規模需要側の改革である。AIデータセンターなど50MW以上のLarge Loadを、どのような条件で系統に接続し、どのように系統を利用させるかが問題になる。Firm、Conditional Firm、Non-Firmといった接続・送電サービスの違いに加え、発電所とのCo-location(併設)や、需要家自身が新しい供給力を確保するBYONC(Bring Your Own New Capacity)などがここに関係する。
③は、電力システム全体として必要な供給力をどう確保するかという問題である。PJMの容量市場RPM(Reliability Pricing Model)を中心に、IRASやRBPがここに位置付けられる。
④は、それらを支える送電網と系統計画である。発電所やデータセンターを増やしても、送電網がなければ電力を運ぶことができない。PJMのRTEP(Regional Transmission Expansion Plan)やNetwork Upgrade、費用負担の仕組みなどが関係する。
このように見ると、今回取り上げるIRASとRBPは、PJM改革の一部であることが分かる。
IRASとRBPの最新動向とPJMにおける位置づけ
IRASは「需要側」から信頼度を確保する仕組み
まずIRASである。PJMは8月13日、IRAS(Interim Resource Adequacy Service)をFERCに正式申請した。その基本的な考え方は、大規模需要が増加する一方で、それを支える十分な供給力が確保されていない場合、その需要をPJM全体の他の需要と同じように扱うのではなく、系統の需給が厳しくなった際に制限できるようにするというものだ。
つまり、IRASは新しい発電所を建設する制度ではない。「供給力が十分に確保されていない大規模需要を、信頼度を維持しながらどう系統に受け入れるか」という問題への対応策である。これまでPJMが検討してきた「Connect-and-Manage」という考え方が、今回のFERC申請ではIRASという制度枠組みに整理されてきたと見ることができる。
ここで重要なのは、IRASが②「大規模需要」と③「供給力・容量市場」の境界に位置していることである。需要を系統につなぐという意味では②である。しかし、その需要が必要とする供給力を確保できているかどうかを問題にするため、③のResource Adequacy、つまり供給力確保の問題と直接結びつく。
BYONCは「需要が供給力を連れてくる」
この関係をさらに分かりやすくするのがBYONCである。BYONC(Bring Your Own New Capacity)は、文字通り、大規模需要の側が新しい供給力を「持ち込む」という考え方だ。
例えば、大規模データセンターを新たに接続する場合、データセンター事業者が新しい発電設備や、それに相当する供給力を確保する。これは②の「大規模需要をどう接続するか」という問題であると同時に、③の「必要な供給力をどう確保するか」という問題でもある。
Firm/Non-FirmとBYONCは同じものではない。
Firm/Non-Firmは、どの程度の系統利用を保証するかという送電・接続サービスの条件である。一方、BYONCは、大規模需要に対応する新たな供給力を確保するという考え方である。つまり、「Firm/Non-Firm=系統をどのような条件で使うか」「BYONC=必要な供給力をどこから持ってくるか」という違いがある。この二つを分けて考えると、PJMの制度設計がかなり理解しやすくなる。
RBPは「供給側」から不足を埋める
これに対してRBPは、③の供給力・容量市場側から問題に対応する仕組みである。
RBP(Reliability Backstop Procurement)は、PJMの容量市場で確認された供給力不足に対して、追加の供給力を確保するバックストップとして提案されている。
2028/29年度の容量市場では、Reliability Requirement(信頼度要件)に対して6,831MWの不足が生じた。PJMはこの不足を埋めることを目的としてRBPを提案し、最大15年間の契約期間を設定する仕組みを示している。
つまりRBPは、「増えていく需要に対して、供給力が足りないなら、新しい供給力を確保する」という供給側からの対応である。
一方、IRASは、「供給力が十分でない需要については、需給が厳しくなった際に制限できるようにする」という需要側からの対応である。
両者は方向が反対だが、目的は共通している。供給力不足の中で大規模需要を増やしながら、PJM全体の信頼度をどう維持するか。そのための「供給側」と「需要側」の二つの仕組みと考えると分かりやすい。
RBPはすでに「実施準備」の段階へ
RBPについては、7月31日にPJMがFERCへ正式提案を行った。対象となるのは、2028/29年度の容量市場で確認された6,831MWの供給力不足である。PJMは、この不足量をそのまま一括して調達するのではなく、新たな発電設備、自己供給、一定の条件を満たす相対契約などによって不足量が埋まれば、その分だけRBPによる調達量を減らす仕組みを提案している。また、契約期間は最長15年とされている。
これは、発電事業者に長期的な収入の見通しを与え、新規供給力への投資を促すことを狙ったものだ。9月には参加者向けのトレーニングも始まり、RBPは単なる構想ではなく、実施に向けた準備段階に入っている。ただし、FERCの最終承認を得た制度ではない点には注意が必要である。
IRASとRBPは「供給力・容量確保改革」の中にある
ここで、先ほどの4本柱に戻ってみよう。
今回のIRASとRBPは、③「供給力・容量市場」に位置している。PJMには、RPM(Reliability Pricing Model)という容量市場がある。容量市場では、将来の電力需要に対応するため、発電所などの供給力をあらかじめ確保する。ところが、AIデータセンターなどの大規模需要が急速に増えると、従来の需要予測を前提とした容量市場だけでは対応しにくくなる。
そこで問題になるのが、「新しい需要を、いつ、どのように容量市場に組み込むのか」という問題である。PJMは7月27日の提案で、2029/30年度以降の容量市場について、2028/29年度の容量市場で用いた需要予測を上回る新規Large Loadを、新たな供給力による裏付けがない限り、容量市場の需要としてそのまま織り込まない方向を示している。
ここでも、IRAS、BYONC、RBPがつながってくる。新しい大規模需要が自ら供給力を持ってくればBYONC。供給力が不足している需要を信頼度上制限できるようにするのがIRAS。PJM全体として不足する供給力を追加調達するのがRBP。
これらを容量市場RPMと組み合わせることで、大規模需要の急増を従来の容量市場制度にそのまま押し込むのではなく、需要と供給力の関係をより明確にしようとしているのである。
IMMからは異論も出ている
もっとも、この制度設計に異論がないわけではない。PJMの独立市場監視者(IMM)であるMonitoring Analyticsは9月3日、IRASに対するプロテストを提出した。
IMMは、供給力を新たに確保していない大規模需要を接続したうえで、後から需給が厳しくなったときに制限するという仕組みには、制度上の矛盾が残ると指摘している。また、需要家が自ら新しい供給力を確保するよりも、PJM全体の供給力不足が解消されるまで待つ誘因が生じる可能性も指摘している。これは重要な論点ではある。
ただし、今回のポイントはIMMとPJMのどちらが正しいかを判断することではない。この議論から分かるのは、大規模需要を系統に接続することと、その需要を支える供給力を確保することを、別々の問題として扱うことが難しくなっているということである。PJM改革の焦点が、まさにそこにある。
4本柱にみるPJMの狙い
4本柱は相互につながっている
ここまでをもう一度整理してみよう。
①発電側「つなぐ・建てる」:発電所を早く系統に接続し、新たな供給力を市場に投入する。②大規模需要「つなぐ・使う」:AIデータセンターなどのLarge Loadを、どのような条件で系統に接続し、利用させるかを決める。③供給力・容量市場「必要な供給力を確保する」:RPMを基本に、BYONC、IRAS、RBPなどによって、需要と供給力の関係を調整する。④送電網・系統計画「系統をつくる」:発電所と需要地を結び、増加する電力を実際に運べる送電網を整備する。
この4つは独立しているわけではない。例えば、大規模データセンターを接続しようとしても、近くに十分な発電設備がなければ②だけでは解決しない。発電所を建設しても、送電線がなければ④の問題が残る。送電線を整備しても、必要な供給力が確保されていなければ③の問題が残る。逆に、供給力を確保しても、大規模需要をどのような条件で系統に接続するかという②の問題が残る。つまり、4本柱は一つのシステムとして動かさなければならない。
AIデータセンターは「改革の原因」というより「改革を加速させる存在」
ここで、AIデータセンターとの関係も整理しておきたい。
現在のPJM改革を語るとき、「AIデータセンターの急増」が強調されることが多い。確かに、数百MW、場合によってはGW級の需要が短期間で特定地域に集中することは、従来の電力システムに大きな変化をもたらしている。
しかし、PJMが抱える問題をすべてAIデータセンターだけから説明するのは適切ではない。発電所の接続遅延、発電設備の退出や供給力の減少、送電網の制約、容量市場の供給力不足など、以前から存在していた問題もある。
AIデータセンターの急増は、これらの問題を一気に表面化させ、改革を加速させていると見る方が分かりやすい。言い換えれば、「AI・データセンターはPJM改革の「唯一の原因」ではないが、従来の制度では対応しきれない部分を急速に拡大させた存在である」。
この視点を持つと、PJMの改革を単なる「データセンター対策」としてではなく、電力システム全体の改革として見ることができる。
PJMは「需要が決まってから供給を考える」仕組みに変えようとしている
従来の電力システムでは、発電所の建設や送電網の整備に長い時間がかかるため、需要の伸びをある程度予測し、その需要に合わせて供給力や系統を準備するという考え方が基本だった。
ところが、AIデータセンターでは、数百MWからGW級の需要が、数年という短期間で特定地域に出現する。すると、「需要予測を前提に、発電所や送電網を順次整備する」という従来型の対応だけでは、間に合わないケースが生じる。
PJMが現在進めている改革は、「需要・供給力・系統を同時に見ながら、誰が何を負担し、どの条件なら接続できるのかを決める」方向へ動いているように見える。
BYONCは需要側に供給力の確保を求める。IRASは供給力を伴わない需要について、信頼度上の制約を設ける。RBPはPJM全体として不足する供給力を追加調達する。そして、これらを支える発電接続改革と送電網改革が進められている。
「大規模需要を拒む」のではなく、「条件を付けて受け入れる」
ここに、現在のPJM改革の特徴がある。AIデータセンターのような大規模需要を、単純に「系統に接続させない」という方向ではない。むしろ、「どのような供給力を確保すれば接続できるのか」「どの程度の系統利用を保証するのか」「供給力が不足した場合にはどうするのか」「そのための費用を誰が負担するのか」という条件を明確にしながら、増加する需要を電力市場の中に組み込もうとしている。
その意味で、IRASやRBPは単独の制度改革ではない。①発電、②大規模需要、③供給力・容量市場、④送電網・系統計画――という4本柱の中の一つであり、それぞれをつなぐ制度として位置付けると、PJMの改革の方向が見えてくる。
おわりに――PJM改革の本質は「需要と供給の再接続」
PJMでは今、AIデータセンターを中心とした大規模需要の急増を背景に、発電、需要、容量市場、送電網の各制度が同時に動き始めている。
今回取り上げたIRASとRBPは、その中でも③「供給力・容量市場」の改革である。IRASは需要側から、RBPは供給側から、急速な需要増加によって生じる供給力不足に対応しようとしている。しかし、それだけでは足りない。新しい発電所を早く系統につなぐ①、Large Loadを適切な条件で接続する②、それらを支える送電網を整備する④が必要になる。
PJMが取り組んでいるのは、AIデータセンター対策というより、急速に変化する需要を前提に、電力システム全体を組み直す作業なのである。そして、その改革の核心にあるのが、「誰が需要を増やし、誰が供給力を用意し、誰が系統を使い、誰がその費用とリスクを負担するのか」という、電力市場の基本的な問いである。
IRASとRBPをめぐる議論は、その問いに対するPJMの一つの答えである。今後、FERCの審査やPJMの制度設計が進むにつれて、この4本柱がどのように一つの仕組みとして組み合わされていくのかが注目される。
※「AIデータセンターと米国電力システム」シリーズ(PJM関連)
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