エネルギ-政策研究所長 山家公雄
送電容量等電力インフラが逼迫する中で、米国は戦略的にAIデータセンターの整備を進めている。ケンタッキー州西部に位置する連邦政府所有地を利用して、北米最大級の電力会社ネクステラと世界的なアセット投資・運用会社ブルックフィールドが建設・運営する「パデューカ・ハブ」が動き出す。地元の電気事業者が卸、小売事業を担当し、消費者への負担を抑えるべく州公益事業委員会が料金を監視する。官民協業によるAIデータセンター開発の新たなモデルである。
パデューカ・エネルギー・ハブの概要
ケンタッキー西部のウラン濃縮施設跡地をAIデータセンターに転用
連邦エネルギー省(DOE)は、ケンタッキー州パデューカに旧ウラン濃縮施設跡地を所有している。ここに、ネクステラ・エナジー(以下、ネクステラとも表記)やブルックフィールドなどの企業連合「パデューカ・アメリカン・エネルギー・ハブ」が、総額1,000億ドル(約16.4兆円)超を投じて、AIデータセンター(以下、AI/DCとも表記)と専用の天然ガス火力発電所等を一体的に建設する。7月29日に、ネクステラ等が発表した。電力系統は中西部・南部の広域送電運用機関(RTO)であるMISO(Midcontinent Independent System Operator)のエリアに属する。MISOは、FERCの説明命令(Show Cause Order)を受け、大規模需要向け接続ルール等の検討を進めている。(図1)。
図1.MISOエリア/パデューカ旧ウラン濃縮設備位置図

(出所:左)MISO:HP
(出所:右)DOE:2022 Paducah Site Annual Site Environmental Report (2023/9)
専用発電設備併設の1.8GWデータセンターを約1000億ドルで建設
当事業は、最大2GW級のガス火力発電設備と最大2.6GWの蓄電池(BESS)を備える1.8GWのデータセンターキャンパスを建設し、2032年の全面稼働を目指す。送電線などは既存インフラを活用するとともに自ら増強し、コストを一般家庭に転嫁しない仕組みとする。地域の電気事業者とも連携し、料金制度は州の公益事業委員会(KPSC)が確認・監視する。まさに連邦政府、州、地元電気事業者そして世界有数のエネルギー・インフラ企業が連携し、それぞれに利益をもたらすモデルを提示している。
関係者の役割と狙い
本計画の最大の特徴は、連邦、州、地元、民間が企業連合「パデューカ・アメリカン・エネルギー・ハブ」を組織し、それぞれに利益をもたらすモデルを築き、早期運開を実現することである。以下で、主要プレーヤーと役割を解説する(表1)。
表1.パデューカ・ハブの主要プレーヤーと役割

(出所)各種情報を基に筆者作成
連邦エネルギー省が場所を提供
計画では、連邦エネルギー省(DOE)が所有する同州パデューカの旧ウラン濃縮施設跡地を活用する。パデューカの敷地は1950年代に核兵器用濃縮ウランの生産拠点として整備され、その後商業用原子炉向けに転換された後、2013年に閉鎖された。送電線や工業用水、光ファイバー網など既存インフラが整っており、開発期間の短縮が期待される。DOEは、民間事業者が活用できるように、2025年7月にパデューカを含む4地区を指定し、11月にパデューカの募集を開始した。因みに、3月に、オハイオ州ポーツマス地区の旧ウラン濃縮施設跡地について、ソフトバンクグループがデータセンター事業を整備することが発表され、着工している。
クリス・ライト米エネルギー長官は「このプロジェクトの重要性は計り知れない。地域社会にコストを転嫁せず、世界最先端のインフラを建設できることを示すひな型になる」と述べた。
ブルックフィールドがAI/DCを建設・所有
ブルックフィールドがデータセンターの開発・運営を担い、ネクステラが発電設備の建設・保有を担当する。ブルックフィールドは、カナダの世界的なアセット投資・運用事業者であり、再エネを主にエネルギーも主要な投資分野として展開している。ウエスチングハウスの50%株主でもあり、トランプ政権の原子力発電推進政策とも密接に連携する。本計画では1.8GWのデータセンターを開発・所有する。
ブルース・フラットCEOは「米国のイノベーションを加速し、経済を支える重要インフラへの需要は、資本、開発能力、そして地域社会に利益をもたらす追加的な発電能力によって満たされる必要がある。」とコメントしている。
ネクステラ・エナジーが発電・蓄電設備を建設・所有
ネクステラ・エナジーは、米国最大級の電力ユーティリティであるFlorida Power & Light(FPL)および北米最大級の再エネ・蓄電池開発事業者であるネクステラ・エナジー・リソーシスを傘下に持つ。再エネ、蓄電池、ガス火力、原子力、送電・ガスインフラ等の事業に精通したオールラウンダーである。データセンター事業者からの電力供給の要請は多く、主力事業として位置づけてきている。AIデータセンターと一体となる電力供給整備を目指しており、データセンターハブ計画が既に30存在し、40を目標としている。日米戦略投資の第2弾に、テキサス州とペンシルバニア州でのデータセンター用のガス火力発電事業が選ばれている。
本計画では2.0GWのガス火力発電、2.6GWの蓄電池を開発・所有する。この設備で生じた電力は、系統を通じて地元の事業者に卸供給される。自家発電ではない。
ジョン・ケッチャムCEOは「このプロジェクトは、AIインフラを米国でどのように構築すべきかを示す実証例である。新たな雇用とエネルギー資源を確保し、より信頼性の高い送電網を保証し、そして既存顧客の電気料金には1ドルたりとも追加負担を発生させない。」とコメントしている。
地元電気事業組合2社がAI/DCに供給
地元の電気事業者の3社、Big Rivers Electric Power(BREP)、Jackson Purchase Energy Cooperative(JPEC)、Paducah Power System (PPS)が協業者として参加する。AI/DCへの電力供給を担う中心はBREPとJPECである。加えて、自治体営電気事業者であるPPSも地域パートナーとして参加する。
BREPは、送電・卸電気事業を営む協同組合であり、ネクステラが発電事業者として契約する相手となる。JPEC は、やはり地元で配電・小売事業を行う組合組織であり、BREP から供給を受け、データセンターに電力を販売する。PPS は、パデューカ市の自治体営電気事業者であり、地元と連携し支援を行う(データセンターは小売り供給地域ではない)。地元2社は、最上流のネクステラ、最下流のブルックフィールドの巨人の間にあり、安定経営の下で業容拡大が可能になると考えらえる。
BREPのドン・ガリーCEOは「このプロジェクトは、電力料金の手頃さや信頼性を損なうことなく、大きな利益をもたらす。」と、JPEC のグレッグ・グリッソムCEOは「協同組合として最優先事項は、サービスを提供する人々と地域社会である。」と、PPSのコリー・ヒックスCEOは「パデューカ・サイトは何世代にもわたり、国家安全保障とエネルギー安全保障の使命において重要な役割を果たしてきた。今日、先進コンピューティングと人工知能という次の国家的課題を支える場所になろうとしている。」とそれぞれコメントしている。
電力システムとしての特徴と示唆
州公益事業委員会(KPSC)の重要な役割
ケンタッキー州は、州全体としては垂直統合型電力事業が基本である。一方で、州内にはMISO、PJM、および非RTO地域が混在しており、全米でも珍しい三つの制度が共存する州となっている。BREP は1割強の販売シェアを有しているが、MISOに所属している。州最大の電気事業者であるLG&E/KU(Louisville Gas and Electric Company/Kentucky Utilities Company)は、ルイスビル市を主に約4割の販売シェアをもつが、非RTOであり独自に需給調整を行う。州の公益事業委員会(KPSC)は、地元ユーティリティの料金を規制する権限を有するが、系統システムが混在するケンタッキー州においては存在が大きいと言える。
即ち、BREP およびJPEC は、卸・送電運用はMISO管轄であるが、料金はPUCに規制される。データセンター以外の需要家に負担が及ぶことのないように監視されることが予想される。ケンタッキー州の一部にて垂直統合型の地元組合組織が供給するシステムであり、KPSCは権限を行使しやすいと考えられる。また、DOEの所有地で、ネクステラは供給力整備に精通している。DOEが募集を進める他の旧核施設跡地でも、同様のモデルが展開される可能性がある。
送電接続とインフラ負担を判断するMISO
一方、データセンターおよびガス火力・蓄電池の系統接続は、MISOのルールに従う。従来(現状)の接続ルールは、発電設備と需要とで別々に取り扱われるが、MISOも接続待ちが多くなっている。
FERCは、6月18日に、6RTOに対して「説明命令(Show Cause Order)」を発し、60日以内に、大口需要家に関する料金制度や接続制度が適切か説明する、必要なら制度を改正するよう求めた。BREPが加盟するMISOも対象である。
SPPでは、大規模需要と発電設備を一体的に扱うHILL/HILLGAプロセスが承認済みであり、高く評価されている(【AIデータセンターが招く米国電力システム変革・その4】SPPが始めたAIデータセンター接続の新ルール | エネルギー戦略)。ERCOTは、FERC管轄外ながら、州法SB6を発行しバッチゼロによる選別作業に入っている(【AIデータセンターが招く米国電力システム変革・後編】ERCOTが切り開くAI時代の電力市場改革 | エネルギー戦略)。いずれも、大規模で、接続コスト等を負担する、専用発電・蓄電設備をもち、緊急時にRTO/ISOの指令に従う等の厳しい条件の下に、迅速な接続が認められる。PJMは、接続待ち、容量市場、大規模需要の接続等について具体策の検討を進めているところである(【AIデータセンターが促す米国電力変革⑤】背水の需給ひっ迫防止対策を講じるPJM | エネルギー戦略)。
MISOの新ルールに影響
MISOも、系統逼迫、データセンター需要増等の環境は似ており、対策を検討しているところである。こうしたなかで、パデューカ・ハブ計画が公表された。場所、メンバー、自前整備を前提とする計画内容等から、MISOにとっても接続ルールを決める際に大変参考になる案件である。MISOのエリアは15州に及んでおり(図1)、州毎に需給状況や制度は異なる。理想的とも言える本計画を意識しつつエリア全体をカバーするルールを構築することとなろう。
ホワイトハウスの「料金負担保護誓約」の具体例
今回の資金調達スキームは、ホワイトハウスが推進するRatepayer Protection Pledge(料金負担保護誓約)に沿って設計されている。この誓約は2026年3月4日に提示され、ビッグテクは必要な発電設備を自ら確保し、送電・配電設備の増強費用を負担し、そのコストを一般家庭等に転嫁しないことを約束した。7月23日には対象が拡大され、現在では、約200の組織、23人の共和党州知事が参加している。ネクステラ・エナジーとBig Rivers Electricも署名企業に含まれている。
最後に:AI/DCが生む「事業・地域主導」の新たな電力システム
AI/DCの導入には、電力システムの再構築が不可欠だとの認識が強まっている。制度的には、系統計画・運用の変革が最大の課題であり、決定者である広域運用者であるRTOとその規制を担うFERCの動向が注目を集める。本ブログでも、PJM、ERCOT、SPPの対策について解説してきた。
一方で、米国では料金は州政府および各州の公益事業委員会(PUC、PSC等)が管理する。送電線への接続、負担配分はRTOが判断するが、最終的に料金を決めるのはPUCである。もちろん、RTOとPUCの判断は一致する方向になるが、RTOの判断には時間を要する。料金を判断する州政府・PUCが先行し、その影響をRTOが受けることも、AI/DC需要が増える中では一般に生じうる。
ケンタッキー州西部のパデューカ・ハブは、連邦政府の所有地を利用し、地元の電力組合が供給者となる。連邦政府の「料金負担保護誓約」方針に沿う「事業・地域主導のモデル」といえる。DOEはパデューカを含む4カ所で募集を行っている。日本にも旧原子力関連施設跡地や公営電力会社など、条件の一部が共通する地域は存在する。制度は異なるものの、政府・地域・民間が連携する開発モデルとして参考になる可能性がある。
AIデータセンターを巡る米国の電力改革は、「送電接続ルール」と「料金・費用負担ルール」という二つの制度改革が並行して進んでいる。次回以降は、この第二の柱である州政府・公益事業委員会(PUC)による料金制度・費用負担ルールの改革について詳しく見ていく。


コメント