エネルギ-政策研究所長 山家公雄
本稿は「AIデータセンターが招く米国電力システム変革」の第2回である。前回は「激増する需要とPJM容量市場の危機」を解説した。今回は、連邦エネルギー規制委員会(FERC)が進める改革とAIデータセンター等大規模電力需要の接続を巡るFERC、PJM等のコロケーション(需要と発電設備等が隣接するケースの接続)論争について、解説する。
第3節 再エネとデータセンターが促す電力市場改革
FERCは、AI需要増加に直接対応したわけではないが、再エネ導入や接続待ち問題への対応を通じて、結果的にAI時代の電力システム整備を後押しする改革を進めてきた。
FERCは大規模電力市場改革を実施中
AIデータセンター(以下、AI/DCと表記)による需要増を背景に、供給力不足への懸念、とくに送電容量不足や系統接続待ち時間の長期化が大きな問題となっている。これは、再エネ開発の爆発的な増加を背景とする調整力不足への懸念を含めて、米国電力システム全体の問題となっていた。
連邦エネルギー規制委員会(FERC)改革の本質は、①系統接続を速くする、②送電網を増強する、③需要家や蓄電池など新たな調整力を市場に参加させる、の3点に集約される。表1は、FERCが最近発出した主要オーダーを示している。
表1.FERCが最近発出した主要オーダー

(出所)FERC資料を基に作成
DERの卸市場参入/データセンターの調整力提供が容易に
2020年9月に出た「オーダー2222」は、分散型エネルギー資源(DER)のアグリゲーションによる卸市場参入を許可するものである。風力発電、太陽光発電の変動電源の導入が進み、調整力(柔軟性)の導入が求められてきている。その中で、やはり普及が見込まれる屋根置き太陽光発電やEV等のDERを、調整力として系統運用に活用するものであり、現在RTO等がソフトを整備中である。AI/DCが整備する自家発や蓄電池を、柔軟性として提供できる制度として脚光を浴びつつある。
接続時間を短縮/先着優先からクラスター方式へ
「オーダー2023」は、2023年7月に、長期化する系統接続待ちを解消するための方策として発出された。接続待ちは、Interconnection Queueと表示されるが、長期化が全米的に大きな課題となっている。従来は、申請された順番に従い、系統に及ぼす影響を試算し不足しない措置を講じた上で許可する「先着優先(First-ready)」方式であった。これを、まとめて調査し負担配分を講じた上で許可する「クラスター検討方式」へ転換する。一部のRTOでは開始されているが、滞留している既存事業の処理に時間を擁している。
滞留していた事業の多くは再エネ・蓄電池であったが、再審査等の間に、インフレやIRA優遇措置の縮小等により、かなり減少している模様である。AI/DCは時間との勝負であり、迅速な接続は最重要課題となる。クラスター方式の移行の効果が注視されている。
20年先の広域送電網整備計画を整備/難航する連邦と州の権限調整
2024年5 月に出た「オーダー1920」は、広域の長期送電計画に関するものである。従来は10年先を見据えたルールであったが、20年先に延ばすとともに州間費用負担ルールを義務化するものである。
RTOの効果は、広域で需給調整を実施することで、高効率・低コスト・信頼性を実現するものであるが、送電インフラとくに州を跨ぐ広域送電網の整備が重要になる。しかし、州の利害調整が容易ではなく、整備に時間を要していた。連邦(FERC)と州(PUC等)との権限の解釈を巡ってしばしば対立が生じる機微に触れる領域でもある。
電気事業は、自由化前は、電気事業者が地域独占で発電・送配電・小売を統合しており、州政府が規制主体であった。自由化後は、卸取引と州間や大規模送電線はFERCが管轄するが、発電・小売・配電・料金は、州議会・PUCの管轄として残る。州は立地・環境等の許可、送配電に係る費用を含む料金認可の権限をもつ。しかし、大規模な発電設備や送電線に関しては、連邦と州の閾(しきい)が明確でないところがあり、紛争の対象となる。また、州間の連系線建設に関しては、利益を受ける州(受益州)と通過する州とでは、費用配分を巡り紛争に発展するケースが多い。再エネやデータセンター投資を巡り、州間の調整に時間がかかっている。
建設を急ぐハイパースケーラーは、この送電網整備の不透明性を最大の問題と認識している。オーダー1920の実現がAI/DC普及のカギを握っていると言える。
第4節 PJMにおける大規模需要コロケーションを巡る動き
現状の系統接続ルールの下では、許可を得るために長い時間を要する、あるいはいつになるか分からない。このような状況を避けるために、AI/DCは系統に依存しない電力確保を志向する。なお、コロケーションとは、データセンターと発電設備を近接配置し、系統への依存を減らす考え方である。
FERCの判断:現状の自家発接続では解決できない
同一の敷地(サイト)内に発電設備があれば、系統整備に負担をかけることはない。事故やメンテナンス等で自家発が停止する場合は、その時に限り系統から調達する(バックアップ)場合もあるが、利用する時間・量は少なく、負担は多くないという考え方もありうる。少なくとも接続に要する時間は短くて済む。このような考え方の下で、既存の原子力発電が、その敷地内に立地するデータセンターの専用電源として契約する構想が打ち出された。
2024年11月に、タレン・エナジーが自社原発サイト内にある(コロケーションの)データセンターをアマゾンに売却し、原発から直接電力を供給する計画を進めていたが、PJMは自家発としての系統接続を認定した。しかし、管内のユーティリティが「大規模な需要であり不公平な取引」としてFERCに審査を申請し、FERCはユーティリティの言い分を認めて本件を却下した(表2)。接続自体は認めうるが負担の在り方に問題あり、ということである。
自家発をもつ工場等にバックアップする場合は、緊急時に限られるとしても最大容量分について備えている必要があり、系統に負担がかかる。これまでは、慣行として、自家発分を差し引いた残りを対象に割引料金としていたが、PJMは規模が大きいAI/DCについても同様な考えを採用した。これが批判の的となった。明確にFERCが却下したことは、コロケーションを接続問題の解決策と期待していたハイパースケーラーにショックを与え、戦略練り直しを迫る大きな事件となった。コロケーション(産業用自家発)の問題は、PJMに限らない一般的な慣行であったため、RTO全体に対応を迫る事件でもある。
FERCのコロケーションルール整備命令とPJMの回答
2025年12月に、FERCはPJMに対し、既存のコロケーションルールは「不当・不合理」として、大規模需要の公平なコスト負担、新しい送電サービス、信頼性の確保等について明確なルール作成を命令した(表2)。
表2.コロケーションに関するFERCの命令とPJMの実行案

(出所)PJM、FERC資料を基に作成
大規模需要は50MW以上、3つの接続選択肢
PJMは、2026年2月に、①大規模負荷の閾値として50MW、②選択肢として確定接続、条件付き確定接続、暫定接続の3ルール、を案として提示した。この案を受けて、FERCは5月に最終命令を出し、7月にも新ルール発効となる予定である。本稿を書いている6月14日時点では、まだFERCの最終命令は出ていない。
50MW以上の需要については責任に応じた負担を求めることとなる。接続については、「確定」は、常時接続が認められるが専用と見做される送電インフラ整備の100%を負担する。「暫定」は小さい負担ながら混雑する際は利用不可となる。「条件付き確定」はピーク時等一定の条件下の接続は不可となりうるがそれ以外の接続は保証、との3つ方式からの選択となる。コストや予見性から「条件付き確定」が選択されることが予想されるが、利用不可はどのような場合か、負担はどの程度かについて今後ハイパースケーラーとの交渉となる。
米国版CfD導入で容量市場入札の遅れを取り戻す
容量市場は、新規投資を促す重要なシステムであるが、送電容量の減少、接続待ちの増加、実態に合わせた制度変更等により、AI/DC等需要増や老朽化した火力発電の退出等による供給力逼迫をカバーし難くなっている。制度変更の調整に時間を要し、入札の延期が続き、適用年度が3年から次第に短くなり、最近は1年後となっている。ガス火力は落札後3年で運開するとの前提は崩れ、発電事業者の予見性は低下し、十分な応募量そして落札量確保が難しくなってきている。
PJMは4月に、AI/DC需要を対象に、15GWの特別入札を9月に開始すると発表した。第一段階は相対契約とし、第2段階は残りについて「中央調達」と称するpay-as-bid方式の入札とする。中央調達については、長期固定価格のストライクプライスは容量市場価格との差額決済方式(CfD)の適用を認める。相対契約で容量市場価格への影響を抑える一方で、CfDにより容量市場の市場性を維持する。入札延期等により累積する不足分をカバーする狙いもあるが、CfDは、市場機能を阻害する懸念もあり、一回限りの特別措置としている。これは、FERCの承認が必要であるが、認められると見られている。
FERC改革やPJMの新ルールは、AI時代への適応を目指す重要な取り組みである。しかし、多数の州や利害関係者を調整する必要があり、制度整備にはなお時間を要する。
一方で、テキサス州ERCOTは、価格機能を重視した市場設計と迅速な制度変更により、AIデータセンター投資を強く引き寄せている。
次回は、ERCOTがなぜAI時代の有力な立地先となっているのかを解説する。


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