エネルギ-政策研究所長 山家公雄
米国中西部を中心に電力系統を運営するMISO(Midcontinent Independent System Operator)で(図1)、大規模需要、特にAIデータセンターの急増に対応するために、相次ぐ制度整備が急速に進んでいる。大規模需要+近接発電を迅速に接続するZGIAが8月18日、大規模需要そのものに信頼度要件を課すLLIRRが8月28日に、FERCに提出された。また、大規模需要+関連発電を一体的・並行して審査LARSなどの検討が進んでいる。今回は、MISOが進める制度、注目される具体的な計画パデューカ・ハブとの関連について解説する。
図1.MISO管轄エリア

(出所)MISO:HP
MISOの特徴は、単純に「データセンターを早く系統につなぐ」ことだけを目指しているわけではないことだ。大規模需要そのものの信頼度を高める一方、需要の近くに発電設備を配置し、需要と発電を一体的に扱い、必要に応じて送電サービスを柔軟化する。
つまり、従来の「発電所を系統につなぎ、そこから需要家へ電力を送る」という発電側を起点とした考え方に加えて、「大規模な需要がどこに発生し、それをどのような電源・送電設備で支えるか」という需要起点の考え方を制度に取り込もうとしている。その背景には、AIデータセンターなどによる需要構造の変化がある。
1.大規模需要が急増するMISO
MISOによれば、2009~2024年の電力需要は年平均約0.5%の増加にとどまっていた。ところが現在は、2044年までの需要が年率1~2%程度増加すると見込まれている。特に今後数年間については、それを上回る需要増加も想定されている。
AIデータセンターなどの大規模需要は、従来の一般的な需要とは異なる特徴を持つ。一つの施設が数百MW、場合によってはGW規模となり、しかも短期間で電力需要が立ち上がる。また、計算処理の変化によって電力使用量が急速に変化したり、系統事故時に大量の需要が同時に脱落したりする可能性もある。
MISOはこうした新しい需要を、単なる「大きな負荷」として扱うのではなく、系統の信頼度に影響を与える新しいタイプの需要として制度化しようとしている。
その動きを加速させたのが、2026年6月にFERC(連邦エネルギー規制委員会)がRTO/ISOに対して出した大規模需要に関するShow Cause Order(理由説明要求)である。MISOはこれを受け、Large Load Working Group(LLWG)を中心に、複数の制度を並行して検討している。
2.MISOが進める「大規模需要対策」の全体像
現在の検討を整理すると、MISOは一つの制度で対応するのではなく、いくつかの制度を組み合わせようとしている(表1)。
表1.MISOの大規模需要対応策の全体像

(出所)MISO、FERCの情報を基に筆者作成
ここで重要なのは、③のLARS(Large Load Addition Resource Study)と⑥のLarge Load Project Review は同じものではないことである。LARSは、現在の案では250MW以上の大規模需要を対象に、それに対応する発電設備を並行して審査する仕組みである。
一方、Large Load Application and Study Processでは、Large Load Project Review(LLPR)として、大規模需要そのものの申請・審査プロセスを明確化・迅速化する方向の検討が進められている。MISOは8月27日のLLWGで両方の作業を進めている。
このように見ると、MISOが目指しているのは「データセンターを早く接続する」という単純な制度ではない。需要、電源、送電、信頼度、費用負担を一体として再設計する作業なのである。
3.ZGIA――需要の近くに電源を置けば、接続を簡素化できる
MISOが8月18日にFERCへ申請したのが、Zero Injection Generator Interconnection Agreement(ZGIA)である。名前の通り、「ゼロ・インジェクション」、つまり発電設備から広域送電系統への電力注入を原則として想定しない発電設備について、通常の発電設備系統接続プロセスより簡素な審査を認める仕組みである。
基本的なイメージは、「発電設備→大規模需要」という構成だ。例えば、「ガス火力+蓄電池+データセンター」を同一変電所の同一POI(Point of Interconnection)・同一電圧に接続する構成で設置する。対象発電設備のネームプレート容量は、関連する大規模需要の規模を超えないことが条件となる。
こうした場合、発電設備から広域送電網へ大量の電力を流すことを前提としていないため、通常の発電所のように「この発電設備を系統につないだら、送電線にどのような増強が必要になるか」を大規模に調べる必要性が小さくなる。そこでMISOは、こうした案件について90日程度で審査する迅速プロセスを可能にしようとしている。
つまり、「需要のすぐ近くに電源を置き、広域系統への影響を小さくできるなら、通常の発電接続キューとは別の簡素なルートを設けてもよい」という発想である。これは、AIデータセンターの「需要が先に決まり、電源を急いで確保しなければならない」という現在の状況に適している。
クリーンエネルギー社会の実現を目指すAdvanced Energy Unitedは、広域送電系統への影響がほとんどない併設型プロジェクトについて、電力供給開始までの時間を短縮することは、既に大量の案件を抱える系統接続キューへの圧力を軽減すると評価している。
GoogleはZGIAを「一歩前進」と評価している。ただし、データセンターと発電設備が2つの変電所にまたがる「energy park」のような構成も対象にすべきだと主張している。つまり、ZGIAをどこまで広げるのかが今後の大きな論点となる。
また環境団体などからは、通常のDPP(Definitive Planning Phase)で審査を受けている発電案件との公平性や、既存顧客へのコスト転嫁、信頼度確保などを懸念する声が出ている。ZGIAが「早くつなげる特別ルート」になるほど、通常の接続審査を受けている案件との公平性が問題になるからである。
4.大規模需要そのものにも「系統に優しい」ことを求める
MISOが8月28日にFERCへ申請したもう一つの重要な制度が、「Large Load Interconnection Reliability Requirements(LLIRR)」である。
こちらはZGIAとは別の側面から、大規模需要を系統に組み込む制度である。ZGIAが、「需要+近接発電をどう接続するか」を扱うのに対し、こちらは、「大規模需要そのものを、系統にとって信頼できる需要にするにはどうするか」を扱う。
対象となる「Large Load」は50MW超。さらに、そのうち情報技術機器による需要が25MW以上のものを「Computational Load」として扱う。データセンターのような需要は、単に大きいだけではない。計算処理によって電力需要が急速に変化する可能性があり、また電力系統の事故や電圧・周波数変動に対して、従来の需要とは異なる応答をする可能性がある。
そこでMISOは、主に次の4分野について要件を設けようとしている。
① 可視性(Visibility):施設の電力使用状況、解析に必要なデータ、需要予測などをMISOが把握できるようにする。
② PMU:Phasor Measurement Unit(フェーザ計測装置)などを用いて、系統事故や電圧・周波数変動に対する需要の挙動を高い時間分解能で把握する。
③ Ramp:需要をどの程度の速度で増減させることができるのかを明確にする。
④ Ride-through:系統に一時的な電圧・周波数変動が発生しても、データセンターが一斉に系統から脱落することを避ける。
つまりMISOは、「大規模需要だから早くつなげる」のではなく、「大規模需要だからこそ、系統に与える影響を把握し、一定の信頼度要件を満たしてもらう」という考え方を打ち出している。
これは、近年、データセンターなどの突然の脱落が系統運用上の問題となっていることを背景としている。MISO自身も、大規模で集中した新規需要について、既存の制度では信頼度への影響を一貫して評価する枠組みが不足していると説明している。
5.MISOは「需要起点」の電力システムへ動き始めた
ZGIAとLLIRRを並べると、MISOの方向性が見えてくる。ZGIAは「需要の近くに電源を置く→広域系統への影響を小さくする→発電設備の接続審査を簡素化する」ことを、LLIRRは「大規模需要の挙動を把握する→急激な需要変化や脱落を防ぐ→需要側にも信頼度責任を求める」ことを狙う。
つまり、「発電所を系統につなぐ」だけの制度から、「需要・発電・送電を組み合わせて一つの電力システムを構成する」制度へ移ろうとしている。その意味で、今回のMISOの動きはAIデータセンター問題への単なる応急措置ではなく、電力システムの設計思想にも変化が生じていると見ることができる。
6.パデューカ・ハブはZGIAで説明できるのか
この観点から興味深いのが、MISOエリアとなるケンタッキー州のパデューカ・アメリカン・エナジー・ハブである。「パデューカ・ハブ」については、このシリーズで詳しく解説している(【AIデータセンターが招く米国電力改革⑦】連邦・州・民連携で進むAIデータセンター開発―パデューカ・ハブが示す新モデル― | エネルギー戦略)。
2026年7月、DOE、Brookfield、NextEra Energyなどは、旧パデューカ核燃料濃縮施設跡地に大規模AI・HPCデータセンターを整備する計画を発表した。
計画では、「データセンター:最大1.8GW、天然ガス火力:最大2GW、蓄電池:最大2.6GW、コンピュート能力:1.2GW超」という大規模な電力・データセンター一体型プロジェクトとなっている。ここで重要なのは、2.6GWの蓄電池は「発電設備容量」ではなく、充放電能力であるという点である。したがって、2GWのガス火力+2.6GWの蓄電池を単純に足して「4.6GWの発電所」と考えるのは適切ではない。
むしろ、1.8GWの大規模需要を中心に、2GWのガス火力と大容量の蓄電池を組み合わせたエネルギーシステムと考えた方が分かりやすい。しかも、ガス火力はデータセンター専用の「自家発」というより、系統に接続された電源として計画されている。さらにDOEは、発電・蓄電設備の容量がデータセンターの需要を上回り、余剰電力を地域の系統へ供給することを明示している。ここがZGIAとの大きな違いである。
7.パデューカ・ハブは「ZGIA型」を一歩超えたエネルギーハブ
パデューカ・ハブは、「大規模需要+需要の近くに配置された専用性の高い電源+蓄電池」という点では、ZGIAが想定する世界に非常に近い。しかし、純粋なZGIAは基本的に、「発電した電力を基本的に大規模需要に充て、広域系統への恒常的な電力注入を前提としない」という考え方である。
パデューカ・ハブでは、それに加えて、「余った電力は地域の系統にも供給する」という考え方が入っている。
したがって、パデューカ・ハブを単純に「ZGIAの適用例」と見るのは少し無理がある。パデューカ・ハブはZGIAそのものではなく、ZGIAが示す「需要と電源を近接させ、系統への影響を抑える」という発想を、より大規模なエネルギーハブへ発展させたもの、と考える方が実態に近い。これは今後のMISOの制度設計を考えるうえでも興味深い。
今後の制度設計としては、例えば、① データセンター需要を専用電源で支える部分については、ZGIAのような簡素な接続・審査を認める。一方、② 余剰電力を系統へ供給する部分については、発電設備として別途、系統への影響や送電可能性を評価する。というように、「需要を支える部分」と「系統へ電力を供給する部分」を分けて制度設計する可能性がある。
これは、ZGIAを単純な「ゼロか、ゼロでないか」という二択の制度として考えるよりも、現実のエネルギーハブには適している。
8.MISOが進める制度改革の方向性
MISOの大規模需要対応策をまとめると、①需要側の系統対応力を高める、②需要の近くに発電・蓄電設備を配置する、③需要と発電を一体として審査する、④送電サービスに柔軟性を持たせる、という方向が見えてくる。
LLIRR(Large Load Interconnection Reliability Requirements)による需要側の信頼度要件、ZGIAによる需要近傍の発電設備の迅速な接続、LARSによる需要と発電の並行審査、FLITSなどによる柔軟な送電サービスが、それぞれこの方向を支えている。
つまりMISOは、従来のように「発電設備を系統に接続し、その後に需要へ電力を届ける」という発想だけではなく、大規模需要を起点に、発電・蓄電・送電を組み合わせて電力供給を構築する方向へ、制度を広げ始めているのである。
ただし、ここで避けて通れないのが、そのために必要となる設備や系統増強の費用を誰が負担するのかという問題である。
9.「早くつなぐ」だけではなく、「誰が何を負担するか」
ここで問題になるのが、コスト負担である。AIデータセンターは、電力需要を急速に増やす。しかし、その需要のために送電線や発電所を整備して、その費用を既存の家庭や企業が負担するなら、「データセンターを早くつなぐ」ことだけを目標にすることはできない。
逆に、データセンター側が発電設備、蓄電池、送電設備などに十分な投資を行い、系統への影響を抑えれば、接続を簡素化する合理性が出てくる。パデューカ・ハブは、この考え方を象徴するプロジェクトでもある。DOEやNextEraは、データセンターに対応する発電・蓄電設備をプロジェクト側で整備し、既存の顧客に新たなコストを負担させないことを強調している。
その一方で、余剰電力を地域系統へ供給するのであれば、その電力をどのような条件で系統に受け入れるのかという新たな問題が生じる。ここに、今後のMISO制度改革の重要な論点がある。
最後に 「ゼロ・インジェクション」から「エネルギーハブ」へ
これまでの電力システムでは、「発電所→送電網→需要家」という構造が基本だった。しかしAIデータセンターの登場によって、「大規模需要」を起点として、その需要を支える発電・蓄電設備や送電網を組み合わせるシステム設計が必要になっている。
ZGIAは、その最もシンプルな形である。「需要のそばに電源を置けば、送電網への影響を小さくできる。ならば接続審査も簡素化できる」という考え方だ。
しかしパデューカ・ハブを見ると、現実のプロジェクトはそこにとどまらない。需要を支えるだけでなく、余った電力を地域に供給し、蓄電池を活用し、既存の送電インフラも利用する。つまり、「大規模需要+専用電源」から「大規模需要+発電+蓄電池+系統」を一体化したエネルギーハブへと進んでいる。
MISOが今後、ZGIA、LARS、Large Load Reliability Requirements、FLITSなどをどのように組み合わせるのか。そして、パデューカ・ハブのようなエネルギーハブ型プロジェクトを、既存の発電・需要・送電制度のどこに位置付けるのか。
これは単なるAIデータセンターの接続問題ではなく、「需要起点で電力システムを設計する時代」に、RTOの制度そのものがどう対応するかという問題になっている。
※「AIデータセンターが招く米国電力改革」シリーズ(MISO関連)
▼【AIデータセンターが招く米国電力改革⑦】連邦・州・民連携で進むAIデータセンター開発―パデューカ・ハブが示す新モデル― | エネルギー戦略


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