【AIデータセンターが招く米国電力システム変革④】SPPが始めたAIデータセンター接続の新ルール(第27回)

データセンターと電力システム

エネルギ-政策研究所長 山家公雄

 米国中西部のRTOであるSPPは、AIデータセンター等の大規模電力需要の系統接続待ちが積み上がったことを受け、新たな接続ルールを2026年1月に開始した。大規模需要地点に焦点を当て、発電設備、AIデータセンターなどの大規模需要、さらに送電網増強を一体でシミュレーションし、原則90日で接続可否を判断する制度である。インフラ逼迫を解決する策として、FERCも高く評価しており、新時代を切り開くスキームとして期待されている。

主役に躍り出るSPP

東西系統の統合に乗り出すSPP

SPP(Southwest Power Pool)は、テキサス州北部からオクラホマ、カンザスを通りモンタナ州に至る中西部14州をエリアとする地域運用機関(RTO)である(2026年4月に17州に拡張)。米国の系統は、東部、西部、テキサス(ERCOT)の3つの系統から成るが、SPPは、東部系統の東端に位置し、西部系統と接する。

西部は最西端のカリフォルニア州にCAISOが存在するが、それ以外は基本的に垂直統合型の電力会社(utilities)が個別に需給調整を行っている。CAISOは、リアルタイム市場、前日市場を周辺州に広げてきている。

SPPは、2021年より西部系統の一部utilitiesに送電サービスの提供を行っているが、2026年4月に正式にRTO活動を開始している(図1)。現在3州(アリゾナ、ユタ、コロラド)で一部のutilitiesをカバーしているが、2027年には前日市場、リアルタイム市場を開設する予定である。西系統は、RTOのエリアを巡り、CAISOとSPPは参加者の争奪戦を始めた状況にある。

いずれにしても、SPPは、東部と西部に跨る広大なエリアで広域運用を実現した機関として、歴史的な金字塔を打ち立てた。

図1.SPPエリアと拡張(2026/4)

(出所)SPP Market Monitoring Unit:State of the Market 2025 (2026/5/27)

AIデータセンター需要増が促す接続大変革

もう一つ、SPPが大きく注目される理由がある。接続ルールひいては電力システムを抜本的に変革しようとしているのである。

SPPは、中西部の14州に跨るRTOであるが、需要密度は低く、比較的地味な存在であった。しかし、2022年頃から、AIデータセンター(以下、AI/DCと表記)等の大規模需要による接続計画が相次ぎ、接続ルールの見直しが喫緊の課題となっていた。現在大規模需要の接続申請容量は約26GWであるが、最近の1年間でも約6GWの増加をみている。

SPPエリアにAI/DCの立地計画が多いのは、広大な土地、豊富で安価な電力、東と西のICT需要の中間地、比較的緩やかな規制等による。風況がよく低廉で膨大な風力資源に恵まれており、卸電力市場価格は全米でも最も低い水準で、東海岸、カリフォルニアの約1/2である。SPPを構成する州によるAI/DCの経済波及効果への期待は大きく、誘致に積極的である。

一方供給側は、再エネ、蓄電池の立地計画は多く、累積で約150GWにも上り、接続待ちは3~6年と言われる。従来の接続ルールでは、大規模需要はこの発電行列の後ろに並ぶ必要があった。そこで、SPPは、各州の公益事業委員会、送配電事業者(utilities)等と協議を重ね、2025年9月に、大規模需要接続ルール“HILL(High Impact Large Load、高影響大口負荷)プロセス”を整備した。以下で、解説する。

大規模需要を短期間で接続するHILLシステム

本節では、SPPのHILLシステムについて、具体的に解説する(表1)。

表1.SPPのHILLシステムの概要

(出所)SPP資料等を参考に著者作成

大規模需要の特急接続プロセス:HILL

大規模需要HILLの定義であるが、高圧線(69kV超)に繋ぐ場合はピーク需要が50MW以上、ローカル線(69kV以下)に繋ぐ場合はピーク需要が10MW以上と定められた。このHILLは、一定の条件の下に、従来の接続ルールに捕らわれずに90日という「特急の接続審査」を受けることができる。条件とは以下の通り。

障害時継続運転(FRT)の義務:近隣の電圧がカミナリ等で一瞬低下しても、勝手にブレーカーを落とさず耐え続ける義務(Fault Ride Through)。

高精度測定器(PMU)の設置:PMU(Phasor Measurement Units)を設置し1秒間に30〜60回という超高頻度で、自社の受電データをSPPに全て提供し、監視を受ける義務。

緊急時の遠隔遮断対応:系統が完全に崩壊しそうな時は、送電管理者の遠隔操作(または命令)によって、敷地内の蓄電池や自家発を使った「自給自足モード」へ移行し、系統から一時的に孤立する義務。

すなわち、需要でありながら、発電設備と同様の系統信頼度を維持する義務を負う、ということである。

通常なら数年かかる審査を、一括接続評価(HDPS:HILL Delivery Point Study)によって90日間で完了させる。90日の間に、大規模需要の接続地点に関する、供給側の接続予定発電設備も含めて潮流シミュレーションを実施し、系統の信頼度や容量の有無を確認する。

容量ありとなれば、確定(ファームでの)接続が認められる。容量不足の場合は、暫定接続か発電設備併設での接続化を選択できる。SPPは、全エリアを統合するシミュレーションを毎年実施しており、大規模需要の接続予定地点を上乗せで試算することから、短期間で判断できるのである。

暫定接続としてのCHILLS

空き容量がない場合は、接続を断念する、系統が空いているときにのみ接続が認められるCHILLS(Conditional High Impact Large Load Service)を受け入れる、発電・蓄電設備の併設を行い確定接続を目指す、を選択することとなる。

CHILLSでは、混雑する場合、需給がひっ迫する場合に、最優先で出力・受電抑制の対象となる。また、最長7年間の制限があり、それまでの間に送電増強が行われ、確定接続に移行することが期待される。

発電・蓄電設備併設のHILLGA:本命

発電・蓄電池設備を併設(ペアリング)し、インフラ増強費用を負担することで、150日間の接続審査を受けることができる。これはHILLGA(High Impact Large Load Generation Assessment)に分類される。やはり接続予定の発電設備と併設設備を合わせてシミュレーションを行うのであるが、インフラ増強が必要となるとその費用はデータセンター側が負担する。

併設条件として、需要接続地点の近隣に設置されることが義務付けられる。すなわち、自家設備は需要地点の区域内(ノードエリア内)あるいは需要地点近隣の2変電所以内の接続に限定される。また、契約需要容量の1.2倍までとの制限がある。

HILLGAは、併設設備が必要、系統増強費用は全額負担という厳しい条件ではあるが、確定接続は保証される。また、一定期間の稼働を経て、併設設備が系統全体の信頼性や経済性に寄与する(系統の一部を構成する)と判断される場合は、インフラ増強費用負担を一般負担に切り替える(託送料金で社会的に負担)することが認められ、最長20年間で返金を受けることになる。

AIデータセンターは、瞬時の遮断もユーザーに大きな影響を及ぼすことから、CHILLSではなくHILLGAを選択することが一般的である。

HILLシステムの意義:全米初の需給インフラ統合フレームワーク

本節では、HILLシステムの意義について、解説する。

HILL/HILLGA成立までのタイムライン

SPPは2025年にかけて「需要(DC)と発電の審査を完全に切り離す」ため、関係者(送電所有者、州規制当局、開発事業者)を巻き込んだ集中的なタスクフォースを立ち上げ、「リビジョン・リクエスト 696(RR 696)」という革新的なタリフ(約款)変更案を2025年9月にまとめた。

2025年11月に正式提出されたこの変更案は、2026年1月14日、FERCによって満場一致で承認され、翌1月15日より「HILL/HILLGAプロセス」が正式に発効した。さらに、2026年6月にはノンファーム型の暫定サービスである「CHILLS」も承認され、3プロセスが出そろった。

HILLシステムの意義

この制度の核心は、単なる「大口需要家向け優遇措置」ではなく、「送電インフラ」「発電設備」「データセンター需要」という従来バラバラだった3つの接続審査を、全米で初めて『1つの統合フレームワーク』とした点にある。発電設備と大規模需要を同時に評価すると、潮流が相殺され、送電線の空き容量を有効活用できる場合がある。このような物理的な特徴を生かした合理的なシステムと言える。

FERCのロズナー委員は、要旨として次のように評価している。

・新たな大規模需要を効率的に把握し、それを支える新規発電設備の接続を迅速化し、広域電力系統の信頼性を維持することが可能になる。

需要家が自ら新たな発電設備を持ち込む(Bring Your Own New Generation)という解決策を促進し、他の利用者の負担増や系統信頼性の低下を招くことなく、大口需要を迅速に接続できる。

・SPPの実践的な措置を評価し、全米の他の送電事業者にも、同様の提案を検討するよう促したい。

 

個別解決のSPP、計画対応のERCOT

類似のシステムは、ERCOTの「バッチゼロ」にみることができる。ERCOTでは、AI/DCの接続待ちは約400GWにものぼり、系統全体で「本気の事業」を厳しく絞り込み、大規模需要に焦点を当ててシミュレーションを行い、事業と供給設備を選択するプロセスである。2026年7月11日に正式にスタートする。開始時期はHILLシステムに半年ほど遅れるが、HILLは申請案件ごとに統合評価する方式であるのに対し、バッチゼロは複数案件をまとめて計画的に評価する方式である(【AIデータセンターが招く米国電力システム変革・後編】ERCOTが切り開くAI時代の電力市場改革 | エネルギー戦略)。

最後に 送電・発電・大規模需要を一体化する接続評価への転換

AI先進国の米国では、送電網インフラ不足により、各地でAIデータセンターの接続待ちが積み上がっている。SPPは、「送電インフラ」「発電設備」「大規模需要」の接続評価を一体化した制度設計を実現した。FERCはこのシステムを高く評価しており、他のRTOが続くことを期待している。

方向性はERCOTのバッチゼロと共通するが、SPPは個別案件を対象とした制度であり、今後申請件数が増えれば、より計画的な仕組みに発展していく可能性がある。AIデータセンターという新たな需要の出現は、発電・送電・需要を一体で評価する新しい電力システムへの転換を促し始めている。

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