エネルギ-政策研究所長 山家公雄
AIデータセンターなど大規模需要を、電力システムの信頼性を維持しながら迅速かつ低コストで接続することが、米国電力政策の最大の課題となっている。系統計画や運用を担う各地域送電機関(RTO)は、その解決に向けて制度改革を進めている。先行するERCOT、SPP、PJMの「制度改革」を比較し、電力システムの行方を占う。
序 出揃う大規模需要専用ルール
本コラムの第25~28回の4回にわたりPJM、ERCOT、SPPの制度改革について解説してきた。FERCは、6月18日に、6つのRTO/ISOに対して、大規模需要接続ルールの在り方等について、60日以内の報告を命じた(図1)。
図1.米国のRTO/ISO

(出所)FERC(2025年3月)
対象にはPJMとSPPも含まれるが、両RTOは接続ルールの骨格については既に承認を受けている。制度設計が固まりつつあるPJM・SPPよりも、MISO、NYISO、ISO-NE、CAISOの検討を促す意味合いが大きい。先行するPJM、SPPそしてFERC管轄外であるがERCOTの制度が参考にされると考えられる(表1)。
表1.SPP、ERCOT、PJMの制度改革比較

(出所)各種情報を基に筆者作成
課題山積の系統接続、容量確保に大規模需要増が追い打ち
送電インフラの老朽化と容量不足、再エネ・蓄電池の計画増と膨大な接続待ち、老朽化する火力の休廃止等を背景に、FERCは接続手続きの効率化、基幹送電網の増強等に関するオーダーを出しており、各RTOは対応しているところである。
今回のFERCの命令のポイントは、AIデータセンター(以下、AI/DCとも表記)等大規模需要の接続申請急増への対策である。最近、AI/DC急増に伴う接続問題が急浮上し、多くの課題の同時解決が求められている状況にある。各RTOは、管轄エリアの状況が異なるため、採るべき対策も異なる。
まずPJM、ERCOT、SPPの改革案を振り返ってみる。
最も苦境に立つPJMは、各種制度を見直し
発電設備行列、容量不足、大規模専用ルール策定を同時実施
供給、需要、系統あらゆる面で最も追い込まれているのが、PJMである。中西部から東海岸にまたがる13州(+DC)をエリアとする最大のRTOであり、データセンター立地も集中している。ここ数年で容量市場価格は11倍超上がっている。
発電接続に関しては、不足が深刻な地域の供給力確保を目的として、一定条件を満たす案件について特例として早期審査を認めた。また、250MW以上の大規模電源で、3年以内運開可能、州政府の推薦があるものについて、年10件に限り、審査期間10カ月の特急接続を認める(EIT:Expedited Interconnection Track)。2027年12月までの期限付きで計20件を予定する。
容量不足対策として、追加で約15GWの容量募集(容量市場入札)を行う。9月に第一段階を開始するが、大規模需要との相対契約(PPA)で、期間は自由である。2027年3月に残余分について、pay-as-bid方式の入札を行うが、期間は最長15年で、容量市場価格を参照とする差額補填方式(CfD)を認める。第一段のPPA契約でもCfDが活用される可能性が高い。
EITおよびCfD募集は、大規模需要向けを前提としている。大規模需要については、従来の需要接続(タリフ)とは異なる「専用ルール」を設ける。大規模の閾値は50MW以上とし、接続関連費用は原因者負担となる。接続ルールは、常に接続可能となる「確定(Firm)」、ピーク時等一定条件以外は接続できる「条件付き確定(Conditional-Firm)」、混雑時は不可となる「暫定(Non-Firm)」の3種類となる。送電増強を待つFirm以外は、早期接続が可能となる。
まずはルール策定、募集と処理はこれから
接続に関しては、FERCは6月までに承認しており、追加容量募集に関しては8月中にも承認される見込みである。
PJMは、大規模需要の接続ルール、発電接続の特例を決めた訳であるが、募集はこれからである。今後、大規模需要を起点とする評価手法へ発展するのか、それとも従来方式を維持するのかが注目される。EITが恒久化するのか否かが今後注目される。CfDが認められる発電容量募集は、市場機能を守るために、一回限りと強調されている。
SPPは、特定の大規模需要を起点とするシステムにより90日で判断
SPPは、中西部14州(4月以降は西側系統にも拡張)に跨るRTOで、需要は小さいが、膨大な風力資源があり、安価で豊富な再エネ電力が供給可能である。
SPPのHILLシステム:特定の大規模需要接続が目的
広大な土地と柔軟な電力制度そして強い産業誘致意欲を背景に、大規模需要を受け入れるHILL(High Impact Large Load)システムを整備してきた。大規模の閾値は、高圧線(69kV超)に繋ぐ場合はピーク需要が50MW以上、ローカル線(69kV以下)に繋ぐ場合はピーク需要が10MW以上である。
SPPのHILL/HILLGAシステムは、2026年2月にFERCの承認を受けた。全員一致の承認であり、FERCは高く評価した。大規模需要接続を主目的とする(起点とする)接続シミュレーションとその専用ルールを「画期的」と高く評価した。
逼迫時には出力制御を受ける、電圧低下等の事態でも一定時間遮断しないFRT(Fault Ride Through)義務、詳細な電力情報を常時把握・連絡できる測定器PMU(Phasor Measurement Units)具備等の条件が付される。
系統容量が十分でない場合は、データセンターから2変電所以内に発電設備や蓄電設備を設置し、送電増強費用全額負担を前提に、接続を認める(HILLGA:High Impact Large Load Generation Assessment)。ただし、5年程度経過後に系統の一部として機能していることが分かれば、その後20年間にわたり返却される。また、混雑時に真っ先に(最優先)で遮断される暫定接続も、最長7年間可能となる。
需要を起点とする接続シミュレーションの導入
HILL/HILLGAの接続では、当該大規模需要を起点に、接続待ちの電源や送電増強整備を含めて、一括潮流シミュレーションを行い、需給の接続容量や系統増強を具体的に決めることである。電力の物理法則に基づき、大規模需要は空き容量を生む可能性があるが、これも取り込む効率的なシステムとなりうる。従来は、想定需要の下での系統全体のシミュレーションが前提となっていたが、ターゲット需要を起点とするシミュレーションの実施はAI時代に「画期的」と評されているのである。FERCのロズナー委員は「新たな大規模需要を効率的に把握し、それを支える新規発電設備の接続を迅速化し、広域電力系統の信頼性を維持することが可能になる。」と評している。
ERCOTは、大規模需要群を起点とするシステムにより180日で判断
テキサスは最大のデータセンター需要州に
テキサスは、2023年にバージニアを抜いて最もデータセンター電力使用量は多い州となった。土地、労働力、産業集積、電力・ガスのエネルギー資源等に恵まれていることが背景にある。特に、ISOであるERCOTはエナジーオンリー市場で価格機能に優れ、発電および需要は、自己責任での投資・運用を行う。再エネ・蓄電池を主に早く低コストの供給が見込め、混雑コストは可視化され接続期間も比較的短い。
直近の申込み大規模電力需要は約445GWに積み上がったが、約9割はデータセンターである。この異常な規模は、価格機能やインフラキャパを超え、インフラ不足・コスト高騰を招くとして、特別ルールを設けることとなった。
州法SB6で大規模需要を規制
2025年6月に大規模需要を規制する州法SB6が成立し、PUCTおよびERCOTは関連のルールを整備してきている。エネジーオンリー市場の骨格はそのままに、大規模需要には特別ルールで規制するという考え方である。
大規模の閾値は75MW以上である。接続時は審査料、保証金、工事負担金を原因者負担で支払う。稼利用時は最大出力に見合うネットワーク料金(託送料金)を支払う。平時を含めて木目細かい情報を開示・連絡できる体制とする。逼迫時はERCOTの制御指令に従う、事故で電圧異常等がある場合でも一定時間の継続運転を義務付ける(FRT)等の厳しい規制が課される。
バッチゼロで大規模需要群を起点とする系統計画を策定
また、約445GWに積み上がった申請量について、本気で確実な事業に絞るべく、画期的な接続システム「バッチ処理システム」を導入する。第1次募集として「バッチゼロ」を進める。6月18日にPUCTがプロセスを承認し、7月10日までに開発事業者が、24日までに送電事業者が申し込む。8月に候補事業を選別、2027年1月までに潮流調査等を行い選択される事業や容量を発表というスケジュールである。審査期間は180日間と短い。選定に漏れた事業はバッチ1に移行できる。
高額な財務保証金、土地の確保、技術要件など厳しい要件が課されるが、ERCOTはクリアできるのは100GW程度としている。うち35GWは既に手続き済みであり前提データとなる。事実上の選択対象は65GWであり、空き容量からみて20GW前後に落ち着くとの試算もある。
Batch Zeroに残った約100GW規模の需要群を対象に、供給接続行列、送電増強を含めて系統全体でシミュレーションを行い、接続対象事業と必要な送電増強を確定する。系統の効率的な利用に寄与する需要効果を織り込むという点で、HILLシステムと同様である。HILLは個別需要にフォーカスするが、バッチゼロは系統計画を需要群ベースで策定する点が特徴である。
切り札は需要起点の接続判断
以上、PJM、SPP、ERCOTについて、AIデータセンター計画急増等を背景とする電力制度改革を、接続を主に解説してきた。表2(再掲)は、改革の契機、制度・プロセス、シミュレーションの起点そして進捗状況について、整理したものである。
表2.SPP、ERCOT、PJMの制度改革比較(再掲)

(出所)各種情報を基に筆者作成
ERCOTとSPPは大規模需要を起点に接続システム再構築
SPP、ERCOTは、大規模需要の改革に焦点を当てている。再エネ・蓄電池の接続行列は長いが、市場に委ねるERCOTは、混雑が可視化され、コネクト&マネージで比較的短い期間で接続される。風力が多く需要密度の低いSPPは、大規模需要は再エネ消費に寄与する面がある。いずれも、大規模需要を起点に、発電接続行列、併設電源、送配電増強を一体的に評価するシミュレーションを行い、接続可能容量を算定するとともに、必要な送電増強や個別供給設備を確定する。審査(シミュレーション)は、SPPは個別需要を起点に、ERCOTは需要群(バッチ)を起点に行うという点で、相違がある。SPPも、AI/DCの申し込みが増えると、ERCOT方式に移行することは十分考えられる。
両機関は、供給可能量(アデカシー)確保のために容量市場を採用していない。SPPは各BG(バランシング・グループ)が確保しSPPが監視する。ERCOTは、価格機能に委ねる。柔軟な対策をとれる背景として容量市場の有無がある、との見方もできよう。
3RTOの新システムは電力改革のモデルになる
PJMは既存制度全体の見直しを同時並行で進めているのに対し、SPPとERCOTは大規模需要を起点に接続制度そのものを再設計している。FERCの最近の判断を見る限り、この「需要起点」の考え方は今後他地域にも広がる可能性が高い。
AI時代には、「需要予測を前提に系統を計画する時代」から、「実際の大規模需要を起点に系統を評価・計画する時代」への転換が始まりつつある。SPPとERCOTはその方向へ踏み出している。PJMがこれに続くのか、そしてFERCが全米の新たな接続ルールとして位置付けるのかが、今後の最大の注目点となる。


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