【AIデータセンターが招く米国電力改革⑪】日米戦略投資のエネルギーハブが具体化(後編)―オハイオのPORTS-Pike事業(第35回)

データセンターと電力システム

エネルギー政策研究所長 山家公雄

ネクステラ主導とオープンAI・エヌビディア主導―2つのエネルギ-ハブが動き出す

 日米戦略投資が大きく動く

前回は、日米戦略投資に選定されたネクステラ・エナジーのペンシルバニア州サウスモン、テキサス州アンダーソンのガス火力発電事業を取り上げた。8月12日に日米両政府との最終契約が締結され、8月14日には国際協力銀行(JBIC)が両案件への融資契約を公表した。発電設備を起点として、政府、金融機関、送電網、AIデータセンターなどを組み合わせる「発電先行型」のエネルギーハブで(日米戦略投資のエネルギーハブが具体化|ネクステラ・サウスモン事業とJBIC融資 | エネルギー戦略)ある。

今回は、同じ日米戦略投資の対象となっているオハイオ州のPORTS-Pike事業を取り上げる。こちらは構図が大きく異なる。8月17日、OpenAIとNVIDIAが相次いで発表したことで、PORTS-Pikeでは、OpenAIが約8IT-GWのIT容量を20年間利用し、NVIDIAがAIコンピューティング基盤を供給するというデータセンター側の事業スキームが一気に具体化した。

一方、発電については、10GW級の構想があるものの、その全体が発電所として事業化されたわけではない。現在、具体的な許認可手続きに入ろうとしているのは、最大約2GWの「PORTS Energy Center」である。

つまりPORTS-Pikeは、AI需要を先に確定し、それを支える電力・送電・データセンターを一体的に整備する「需要先行型」と見ることができる。これは、前回取り上げたNextEraのPA州・TX州案件とは対照的である。

PORTS-PikeとNextEra PA/TX――二つのエネルギーハブ

日米戦略投資では、AIデータセンター向けの大規模な電力供給が重要なテーマとなっている。その代表的な二つの案件が、オハイオ州のPORTS-Pikeと、NextEra Energyが進めるペンシルバニア州・テキサス州の事業である。両者はともに、データセンターと大規模電源を組み合わせる点では共通している。しかし、事業構築の起点が異なる(表1)。

表1 PORTS-PikeとNextEra PA/TX――AI需要と電力供給、二つの事業構築モデル

(出所)各種情報を基に筆者作成

PORTS-Pikeは、OpenAIという大口需要家が先に確定し、NVIDIAがコンピューティング基盤と信用補完を担う。その上で、発電、送電、データセンター建設を組み合わせていく。これに対してNextEraは、自ら大規模なガス火力発電を建設・運営し、日米政府の支援と金融機関の資金を組み合わせながら、そこにAIデータセンターや製造業などの大口需要を取り込んでいく。

したがって、両者は、PORTS-Pike=「需要先行型」、NextEra PA/TX=「発電先行型」と整理すると分かりやすい。

ただし、PORTS-Pikeについても10GW級の発電構想があり、電力が自動的に確保されたわけではない。8月17日の発表で大きく具体化したのは、主として8GWのIT需要と、それを支えるデータセンター・コンピューティング・信用補完の仕組みである。発電、送電、許認可については、これからの部分が大きい。

明らかになったオハイオ州・PORTS-Pike事業の構成

8月17日、PORTS-Pikeの「需要側」が一気に具体化

PORTS-Pikeは、オハイオ州パイク郡、旧ポーツマス・ウラン濃縮ガス拡散工場周辺で計画されている大規模AIデータセンター事業である。

3月時点では、ソフトバンクグループ傘下のSB Energyが、旧DOE施設を含む地域を活用して、最大10GW規模のAIデータセンター・キャンパスを建設する構想が報じられていた日米戦略投資の最新動向|AI時代の電力争奪戦と天然ガス火力【後編】 | エネルギー戦略。これに加えて、約9.2GWの天然ガス発電など、大規模な電源整備が想定されていた。しかし、その時点では、10GW級のデータセンターを誰が使うのかが明確に確定していなかった(AI時代は“需要集約”が主役になる/ ソフトバンクのAI戦略 | エネルギー戦略。この状況を大きく変えたのが8月17日の発表である。

OpenAIは、SB Energyとの間で、PORTS-Pikeにおいて約8GWのIT容量を20年間利用する契約を締結すると発表した。最初の0.8GWは2028年に利用可能となる。建設期間は2032年までの6年間としている。

さらにNVIDIAは、PORTS-PikeにおけるOpenAI向けAIコンピューティング基盤の独占的な供給者となることを発表した。NVIDIAは、SB Energyに15億ドルを投資するほか、当初4.25GWのIT負荷を対象として、土地、電力、データセンターのシェルなどのインフラについて信用補完を行う。残りの3.75IT-GWについても追加コミットできるオプションを持つ。

つまり、従来のデータセンター事業のように、「土地を確保する→建物を建設する→電力を確保する→テナントを探す→GPUを導入する」という順序ではない。PORTS-Pikeでは、「OpenAIの需要+NVIDIAのコンピューティング基盤+SB Energyのデータセンター建設+電力・送電インフラ」を一つの巨大な事業体として組み上げようとしている。

NVIDIAの15億ドル投資と「1050億ドル」の意味

今回の発表で特に注目されるのが、NVIDIAの信用補完である。NVIDIAは15億ドルをSB Energyに投資する。さらに、米証券取引委員会(SEC)への提出資料によれば、当初のPORTS-Pikeコミットメントに関連するNVIDIAの支払義務には、最大1050億ドルという上限が設定されている。ただし、これはNVIDIAが1050億ドルをSB Energyに投資するという意味ではない。OpenAIの契約不履行や一定の倒産事象などが発生した場合に、インフラの残存価値などを一定程度保証する条件付きの信用補完である。

AIデータセンターでは、GPUが設置されて収益を生む何年も前から、土地、変圧器、開閉設備、変電所、発電設備、送電線、冷却設備、建物などに巨額の資金を投じなければならない。最大1050億ドルという数字は、この巨大な先行投資リスクに対してNVIDIAの信用力を利用する仕組みと見るべきだろう。

ここに、今回のPORTS-Pike事業の新しさがある。NVIDIAは、単に完成したデータセンターにGPUを販売する企業ではなくなりつつある。AI計算資源を確保するために、土地・電力・建物そのものを「戦略的資源」として押さえる。AI半導体メーカーが、電力インフラを含む物理的なAIインフラの構築に踏み込んでいるのである。

「8GWのデータセンター」は確定したが、「10GWの発電所」が確定したわけではない

ここが今回のPORTS-Pikeを理解する上で最も重要な点である。8月17日のOpenAIとNVIDIAの発表を見ると、約8GWのIT容量、20年間のリース、2032年までに完工、NVIDIAの投資・信用補完などについては具体的に説明されている。一方、発電については、それほど詳しくない。

3月時点では、最大10GWの新規発電能力、そのうち約9.2GWを天然ガス発電とする構想が示されていた。しかし、9.2GWの天然ガス発電が一つの発電所として一括して事業化されたわけではない。現在、具体的な許認可手続きに進もうとしているのが「PORTS Energy Center」である。

PORTS-Pike事業の電力インフラはこれから整備

発電は10GW構想から、まず2GW案件へ

一方、発電側はまだ具体化の途上にある。当初より、初期段階として0.8GWの電力供給を確保する構想が示されていた。全体では9.2GWの天然ガス発電が想定されているが、現在、具体的な許認可手続きに進もうとしているのが「PORTS Energy Center」である。この案件については、Portsmouth Gas DevCoがOhio Power Siting Board(OPSB)への申請準備を進めており、州の認可を得る必要がある。また、事業者は2027年第1四半期から第1段階の建設を開始し、2028年第3四半期から段階的な商業運転を開始する計画を示している。

また、PORTS-Pikeは連邦政府のFAST-41の対象となっているが、これは連邦レベルの許認可・環境審査を調整・迅速化する仕組みであり、環境法上の審査を免除するものではない。発電所については、州の電力立地委員会OPSB(Ohio Power Siting Board)による環境適合性・公共的必要性の認証が必要となる

さらに、8GW級のデータセンターを実現するには、発電設備だけでなく送電網の整備も必要となる。SB Energy・SoftBankはAEP Ohioとの協力で、少なくとも42億ドルの地域送電インフラを整備する計画を示している。したがって、PORTS-Pikeの8GW構想は、データセンター建設だけでなく、発電・送電を含む大規模な電力インフラ整備と一体で進められることになる。

発電とデータセンターのスケジュールをどう合わせるか

PORTS-Pikeの構想は、最終的には約8GWのIT容量を2032年までに整備するという壮大なものである。しかし、電力供給については、「発電所の許認可→タービン等の調達→ガス供給インフラ→発電所建設→変電設備→送電線→系統接続」という工程を踏まなければならない。

したがって、「8IT-GWの需要契約がある」ことと、「8GWの電力供給が確保されている」ことは同じではない。ここにPORTS-Pikeの最大の不確実性が残る。

PJMの系統接続問題は残る

PORTS-PikeはPJMの系統エリアに位置する。ここで、これまで本シリーズで取り上げてきたPJMの問題が再び登場する。PJMでは発電設備の接続待ちが長期化しているだけでなく、AIデータセンターなど大規模需要の接続も急増している。

PJMは、EIT(Expedited Interconnection Track:高速接続トラック)、大規模需要向けの接続選択肢、IRAS(Interim Resource Adequacy Service:暫定供給力確保ルール)、RBP(Reliability Backstop Procurement:緊急容量調達)など、発電と需要の双方について新しい制度を導入しようとしている(PJM、AIデータセンターを先行遮断へ|IRASが問う信頼性と公平性 | エネルギー戦略)(【AIデータセンターが促す米国電力変革⑤】背水の需給ひっ迫防止対策を講じるPJM | エネルギー戦略)。

しかし、PORTS-Pikeのような巨大案件をこれらの制度のどこに位置づけるのかは、まだ明確ではない。特に重要なのは、発電設備と大規模需要が同じキャンパスで一体化する場合、通常の「発電接続」「需要接続」の片方だけで処理できるのかという問題である。ここには、PJMが現在進めている制度改革そのものとの接点がある。

「10GWの発電を一カ所に集中」することの意味

もう一つ注意したいのが、10GWという発電規模である。当初の報道では、オハイオ州の複数地点を含む形で大規模な発電設備を整備する構想と読める部分もあった。現在のPORTS-Pikeの説明では、10GW級の発電と8GWのIT容量を持つ巨大キャンパスというイメージが強くなっている。

もし10GW級の発電設備を一地域に集中させる場合、その全量を系統信頼度上どのように評価するのか、また大規模な単一電源脱落リスクをどのように扱うのかは、PJMにとって重要な検討事項になる。

「需要先行型」だからこそ、電力システムとの調整が重要になる

PORTS-Pikeの最大の特徴は、OpenAIという需要家が先に確定したことである。これはプロジェクトファイナンスやデータセンター建設にとって非常に大きな意味を持つ。

一方で、電力システムから見ると事情は異なる。8GWの需要が確定したことは、系統側から見れば8GWの新たな大口負荷が発生することを意味する。その需要をいつ、どこに、どのような電源で、どの送電設備を使って供給するのか。さらに、既存のPJM利用者にコストを転嫁しないという「コスト原因者負担」の原則をどう適用するのか。ここは、今後の制度設計とPORTS-Pikeの事業化が交差するところである。

PORTS-PikeとNextEraハブ事業――「需要先行型」と「発電先行型」

ここまで見てきたPORTS-Pikeと、前編で取り上げたNextEraのペンシルバニア州・テキサス州の事業を比較すると、両者はともに日米戦略投資による大規模なガス火力とAIデータセンターを組み合わせた事業である一方、事業形成の出発点が異なることが分かる。

PORTS-Pikeでは、OpenAIが約8GWのIT容量を利用することが明確になり、NVIDIAも専用のAIコンピューティング基盤として参加するなど、需要側の具体化が先行している。これに対し、NextEraのPA州・TX州事業は、NextEraが発電設備を中心とするエネルギーハブを構築し、そこにAIデータセンターなどの大規模需要を取り込んでいく、発電・エネルギーインフラ側からの構築が先行する形である。

この違いを整理すると、次のようになる(表2)。

表2 PORTS-PikeとNextEra PA/TX――事業構築の起点の違い

(出所)各種情報を基に著者作成

すなわち、PORTS-Pikeは「需要先行型」、NextEraのPA州・TX州事業は「発電先行型」と整理できる。前者では、データセンターの需要とコンピューティング基盤が先に固まり、それを支える発電・送電インフラがこれから具体化する。後者では、発電・エネルギーハブの整備を先行させ、そこに大規模需要を組み合わせていく構図である。

最後に 「8GWの需要」が「10GWの電源」を動かせるか

今回のPORTS-Pike事業では、OpenAIが約8GWのIT容量を20年間利用する契約を結び、NVIDIAがAI計算基盤の提供と、初期4.25GW分の土地・電力・建物(シェル)インフラに対する信用補完を担うなど、データセンター側の事業構造が一気に具体化した。

一方、電力側は、10GW級の発電構想が示されているものの、現在、許認可手続きに入ろうとしているのは最大約2GWのPORTS Energy Centerである。さらに、送電線、ガス供給、環境審査などもこれからであり、8GWの需要に対して10GW級の電源をどのように整備するのかは、まだ今後の課題である。

この点で、PORTS-Pikeは、発電所を先に整備してAI需要を取り込もうとするNextEraのPA州・TX州案件とは対照的である。「需要を先に確保して電源を追いつかせる」PORTS-Pikeと、「発電・エネルギーインフラを先に事業化して需要を取り込む」NextEra。

日米戦略投資によるAI・電力インフラ整備は、こうした異なる事業モデルを通じて具体化し始めている。今後の焦点は、PORTS-Pikeの8GWの需要に対して、10GW級の発電・送電インフラをどのようなスピードで実現できるかに移る。

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