エネルギ-政策研究所長 山家公雄
日米戦略投資に選定されたネクステラ・エナジーのAIデータセンター向けガス火力発電事業が具体的に動き出す。8月12日に同社が日米両政府との最終契約を発表し、8月14日には国際協力銀行(JBIC)がペンシルバニア州、テキサス州の両事業について、米銀との協調融資契約を発表した。AIデータセンター、天然ガス火力、JBIC・NEXI、PJMが交差する。今回は、ペンシルバニア州のサウスモン事業を主にネクステラの動きを解説する。
ネクステラが日米政府と契約を締結
8月12日に、ネクステラ・エナジー(以下、ネクステラとも表示)は、日米戦略投資に選定されたAIデータセンター向けを主とするガス火力発電事業に関し、以下の情報をHPに公表した。3月に日米投資第2弾の一角として、同社がペンシルバニア州で4.3GW、テキサス州で5.2GWのガス火力発電を建設する計画が発表されていた(日米戦略投資の最新動向|AI時代の電力争奪戦と天然ガス火力【後編】 | エネルギー戦略)。
・テキサス州およびペンシルバニア州における最大10GWの天然ガス火力発電設備の開発・運営に向け、米国商務省および日本政府と最終的な契約を締結した。
・2つのプロジェクトの当初の投資に対して、第1回目の資金拠出33億ドルが実行される。
・タービンなど納期の長い機器の前払い金や、エンジニアリング・調達・建設(EPC)業者の選定など、さまざまな開発活動に充てられる。
・最初の発電設備は早ければ2028年末にも運転開始し、プロジェクト全体は2032年までに完成する予定である。
・プロジェクトは、必要な許認可や規制上の要件を満たすことに加え、開発、建設、試運転などの各工程を完了することを条件とする。
許認可等の取得が条件ではあるが、日米政府との最終契約に加えて、JBIC等との融資契約も締結され、ファイナンス面でも事業化に向けた大きな一歩となった。同社のジョン・ケッチャムCEO兼会長は、ネクステラが計画する30を超えるエネルギ-ハブ計画の2つであることを強調している(データセンターは電力システムをどう変えるのか/ネクステラにみる「再エネ+蓄電池+ガス」戦略 | エネルギー戦略)。
また、発表にはラトニック商務長官の実績を誇るコメント「当初の33億ドルの投資により、必要な施設の建設が始まり、家庭のエネルギー価格を引き下げ、数千人規模の高賃金雇用を創出することになる。」を寄せている。またペンシルバニア州、テキサス州の連邦上院議員の歓迎と期待のコメントが紹介されている。特にPA州のデイブ・マコーミック議員は、「170億ドル規模のサウスモン(South Mon)プロジェクトは歴史的なものであり、4.3GWの信頼性の高い天然ガス発電を実現するとともに、米国に電力を供給し、手頃な料金を守る」と具体的に語っている。
JBICがPA州・TX州の両案件で融資契約を締結
一方、8月7日にペンシルバニア州(PA州)とテキサス州(TX州)の両案件で融資契約が結ばれた。8月14日に国際協力銀行(JBIC)が同時公表を行った。JBICの発表によれば、PA州のサウスモン案件について、JBICは約8.01億ドルを融資し、Citi・JPMorganを合わせた協調融資総額は約23.97億ドルとなる。TX州案件も同様に、JBIC約7.39億ドル、協調融資総額約22.13億ドルである。すなわち、JBICが約15.4億ドルの融資契約を締結し、それを含む形で、米銀を含む民間金融機関が加わり、両案件合わせて約46億ドルの協調融資が組成される。
NextEraは8月12日の発表で、テキサス州・ペンシルベニア州の両案件について、初期資金33億ドルが動き出すと発表した。したがって、NextEraが発表した33億ドルとJBICが発表した46億ドルを単純に合算することはできない。前者は両案件に対する初期投資・資金供給の額、後者はJBICを含む金融機関による協調融資総額であり、両者の資金構造上の対応関係については、現時点で詳細は公表されていない。
ただし、少なくとも明らかなのは、日米政府の支援を契機として、政策金融だけでなく民間金融機関を含む巨額の資金調達が具体的に始まったことである。
なお、今回の協調融資には邦銀の名前はなく、CitiとJPMorganの東京支店が参加した。ロイターは、巨額のドル建て融資に伴う資金調達コストなどを背景に、邦銀が慎重な姿勢を示していると報じている。一方、オハイオ州のSB Energyが関与する事業では邦銀が協調融資に参加している(表1)。
表1.日米戦略AI電力投資の比較:オハイオ州vsペンシルバニア州

(出所)各種情報を基に著者作成
両案件はともに日米戦略投資による大規模ガス火力を核とするPJMのAI電力インフラ案件だが、ポーツマスはAI需要を起点に、サウスモンは電力・エネルギーインフラを起点に事業が組み立てられている。今回はこのうち、NextEraのサウスモン事業を中心に見る。
サウスモン事業は金融面で進展
サウスモン事業は、日米政府の支援に加え、JBICが公的融資を担い、NEXIによる保険が付されることで、米銀を含む協調融資を組成する金融面の枠組みが整い、事業化に向けた金融面の基盤ができつつある。次に注目されるのは、この4.3GWの電力を誰が使うのかである。
サウスモン事業については、ロイター報道によると「データセンター・製造業向けに3.5GW電力供給」との報道がある。ガス火力4.3GWのうち3.5GWが大規模需要となる。サウスモンは、日本製鉄が買収したUSスチールの本拠地であり、日鉄はホットコイル設備を主に大規模な更新投資を実施するとしている。USスチールの設備更新などによる電力需要の増加も、将来的な供給対象の一つとなる可能性がある。いずれにしても、日米協力により注目が集まる地域となる。
PJMでの接続はまだ不透明
サウスモン事業はPJMエリア内に位置するが、PJMでは発電・需要の双方で接続や供給力確保をめぐる制約が強まっており、立て直しを図っているところである(【AIデータセンターが促す米国電力変革⑤】背水の需給ひっ迫防止対策を講じるPJM | エネルギー戦略)。PJMでは発電設備の接続待ち案件が多く、行列が長い。一件ごとに審査する方式から一括して準備度合いを勘案して審査するクラスター方式に移行しているが、積み上がった案件の整理に時間がかかる。2年間20案件を特急(10ヶ月)で接続する「高速接続トラック(EIT:Expedited Interconnection Track)」が6月9日に承認されたところである。条件は厳しく、250MW以上の規模、3年以内に商業運転できる証明、高額の審査手数料・保証金の支払い、州知事等の政治的な裏付け等である。
大規模需要も、AIデータセンター計画増を主に接続待ちが増えている。3つの接続選択肢が6月18日にFERCにより承認され、コストの原因者責任を原則とする「条件付き確定」方式が本命とされている。一方7月27日に、必要容量を用意しない場合ひっ迫時に先駆けて遮断されるIRAS(Interim Resource Adequacy Service:暫定供給力確保サービス)が、理事会案として発表されたところであり、大規模需要者は反対を強く表明している。
容量市場入札は、7月14日に2028/29年度入札結果が発表されたが、調達容量は信頼度基準を約6.8GW下回り、容量不足は2回連続となった。不足分を補うために大規模需要向けの緊急容量調達RBP(Reliability Backstop Procurement)が実施される予定であるが、相対取引と中央調達が並行して取り組まれることとなる。
相対契約については、既に6月9日に提案依頼書を発行しており、中央調達入札と並行して進める。中央調達は9月末から開始される予定で、今後、詳細な募集・選定スケジュールが確定する。
今後、EITやRBPなど、PJMが導入を進める新たな接続・信頼度確保の仕組みとの関係が注目される。スケジュール的にはケッチャムCEOが示す運開時期と齟齬はない。サウスモン事業は、既存のガス・電力インフラを利用する可能性が指摘されており、系統接続上の負担を抑えられる可能性がある。日米両政府との契約を背景に進む大型プロジェクトが、PJMの接続・信頼度確保の枠組みの中でどのように位置付けられるかも注目される。
なお、RBPは、2028/29年度の容量市場で生じた約6.8GWの不足分を埋めるための措置である。一方、サウスモンはガス火力4.3GWのうち、3.5GWがデータセンター・製造業向けの供給に充てられるとされている。仮にその対象となるとすれば、単独案件として極めて大きな比重を占めることになる。
テキサスのアンダーソン事業は、接続手続きが先行
一方、テキサス州アンダーソン郡における事業(アンダーソンハブ)では、約160億ドルを投じて5.2GW容量のガス火力発電を建設する予定であるが、ERCOTエリア内であり、大規模需要向けの接続制度が先行して整備されている。州法SB6で大規模需要の接続ルールは策定済であり、大規模需要の特急接続システムであるBatch Zero(バッチ・ゼロ)の採択候補であると考えられる。5.0GWはAI関連データセンターの他、水素およびLNG(液化天然ガス)関連の大口需要家向けになると報じられている。同施設は、テキサス州内のパイプラインを通じて、Permian(パーミアン)およびHaynesville(ヘインズビル)盆地からガスを調達する。
ERCOTは2026年6月18日に、Large Load向けのBatch Zeroを正式に承認した。当初の予定では、8月7日までにプロジェクト分類、9月からバッチ・ゼロの系統解析 というスケジュールだった。しかし、8月3日、Greg Abbott(グレッグ・アボット)知事が、ERCOTの系統接続を希望するデータセンターについて事前の検証・監査を行うよう指示したことを受け、ERCOTは同日にBatch Zeroの予定されていた作業を延期した。情報収集は水資源等電力以外のことであり、あまり時間を要さないとの見方もある。
最後に 電力システムとAIデータセンター事業の一体化がリアルタイムで進展
AIサービスの需要は旺盛で、データセンター建設計画は膨大な数に上る。最大の隘路は電力供給の確保であるが、需要急増に既存の電力システムは追いつかない状況にある。特に火力・原子力中心の電源構成で、AI需要が大きく、多数の州に跨り調整に時間を要するPJMは、早急な整備を迫られている。間に合わない場合は、ERCOT、SPP等の他地区に変更される可能性は高い。供給、需要、送電網の整合性を確保できる形での整備を進めると同時に、EIT、RBP等の緊急措置で急場をしのごうとしている。
そうした中でAI事業者、電気事業者、連邦や州の政府等が具体的な事業構築に向けた動きが活発になってきている。電力システムの制度改革と具体的な事業構築が一体化する事例が増え、相互に影響を与える。
今回は、米国最大級の電力会社でデータセンター向けのハブ構想を展開するネクステラが電力設備の建設・運営を主導し、日米政府がAIデータセンター向けのインフラ整備として採択した枠組みで進む事業を取り上げた。PJMの接続制度にどのように乗るかは、まだ不透明であるが、「特急措置」に採択されるのか、ハブ構想に適うシステムを導入するのか、目を離せないところである。もう一つのテキサス州アンダーソン事業は、接続では8月7日にも結果が分かるはずであった。手続きが中断したが、先行していると考えられる。
米国は、AI需要を起点とするケースだけでなく、電源・エネルギーハブを起点にAI需要を取り込むケースも含め、発電所、データセンター、金融機関、政府、送電網制度までを一体的に組み立てる段階に入った。
※参考ブログ(ネクステラ関連)
▼AIデータセンターが「電力メジャー」を生む──ネクステラとドミニオン統合の衝撃 | エネルギー戦略
▼データセンターは電力システムをどう変えるのか/ネクステラにみる「再エネ+蓄電池+ガス」戦略 | エネルギー戦略
※参考ブログ(日米戦略投資関連)
▼日米戦略投資の最新動向|AI時代の電力争奪戦と天然ガス火力【後編】 | エネルギー戦略
▼動き出した日米エネルギー投資|原油インフラ・小型原子炉・AI向け電力戦略【前編】 | エネルギー戦略
▼5500億ドル投資枠の核心|原子力・AIインフラを軸とした日米戦略を徹底解説 | エネルギー戦略
※参考ブログ(PJM関連)
▼PJM、AIデータセンターを先行遮断へ|IRASが問う信頼性と公平性 | エネルギー戦略


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