No.12 動き出した日米戦略投資・エネルギーが主役(前編)/原油インフラ、小型原子炉(SMR)、AI向けガス火力が先陣

日米戦略投資

エネルギ-政策研究所長 山家公雄

 3月19日の日米首脳会議では、エネルギーが議論の主役となった。アラスカ原油を共同開発し利用・備蓄する、AIデータセンター等で急増する電力需要向けにガス火力発電を建設する、安全で分散設置が可能な将来技術として期待される小型原子炉・SMRの開発である。日米戦略投資が具体的に姿を現したと言える。2回にわたり、解説する。今回は、全体を概観し、原油インフラ、小型原子炉(SMR)に焦点を当てる。

日米戦略投資第1陣、第2陣の概要

 2025年7月に、トランプ政権が課した関税率を引き下げる見返りとして米国内での5500億ドル(87兆円)の投資が合意された。9月に対象分野や手順等を定めた覚書(MOU)が締結され、10月28日にはエネルギー、AI電力、AIインフラ、需要鉱物から成る約4000億ドルにおよぶ事業イメージ(ファクトシート)が公表された。その後、5回におよぶ協議委員会を経て、2026年2月17日は第1陣、3月19日には第2陣の事業が公表された(表1)。

表1.日米戦略投資第1陣、第2陣の概要

  (出所)日米政府公表資料等を基に作成

第1、2陣の公表により、5500億ドルのうち最大1090億ドル(17兆円)が発表されたが、進捗は約2割となる。工業用ダイア製造以外は全てエネルギーであり、事業内容や場所から全体の意図が見えてきたと言える。表2は、ファクトシート、第1陣、第2陣の概要を一覧したものであるが、ファクトシートの領域で分類している。SMR、AIを睨んだ天然ガス火力発電が先行、原油インフラが浮上していることが分かる。

表2.日米戦略投資判断の推移と領域 (単位:億ドル)

(出所)日米政府公表資料等を基に作成

以下、輸出入増加のための原油インフラ、戦略産業としてのSMR、ガス火力発電(AIにも関連)について解説する。

資源調達多様化の切り札となるアラスカ原油開発

イラク戦争勃発に伴うホルムズ海峡閉鎖は、原油輸入の94%が経由する日本にとり、改めて調達多様化の重要性を再確認することとなった。政治的に安定しており、地理的にも近いアラスカ産原油へのアプローチは、中東リスク顕在化の“即応策”と言える。アラスカから日本への輸送は約12日間で、中東(約22日間)に比べ大幅に短縮される。即応策としては、既存炉の増強、米国内移出分の振り替え実施が考えられる。

アラスカ州の原油は北極海に面するプルドーベイ油田で採掘され、南部のアンカレジまで1280kmのパイプラインで運ばれる(図1)。タンカーに積み替えて米国西岸やアジア諸国に移輸出される。

図1.アラスカ原油生産・パイプラインの位置

(出所)JOGMEC「アラスカの石油ガス開発の現状とLNG計画(2025年6月19日)」

産油量はピーク時の日量200万バレルから40万バレルまで減少しており、新規油田の開発とパイプラインのメンテナンスが必要となっている。茂木外相は、22日のTV出演で「2倍に増える」と語っている。同時に、余剰分を日本国内で日米の共同備蓄とし、必要に応じアジア諸国に供給する「中継基地」的な位置づけも計画する。2倍増となるには、新規開発が必要になるが、5~10年を要する。また、環境団体等からの反対運動が予想される。

アラスカは、天然ガスパイプラインとLNG基地の新設が注目されたが、原油が先行する形となる。原油インフラは、既設設備を利用できること、日本を含むアジア諸国は原油調達の多様化がより差し迫った課題であることが背景にある。

SMRの開発:戦略産業として重視

原子力は、昨年10月のファクトシートで、大型炉のAP1000に1000億ドル、SMRに1250億ドルの期待が示された。

SMR(Small Modular Reactor)は、従来の大型原子力発電所(100万kW以上)に比べ、1基あたりの電気出力が300MW(30万kW)以下の小型原子炉である。脱炭素、安定電源確保に向けた「次世代のクリーンなベースロード電源」として、世界中で研究開発と社会実装に向けた動きが活発化している。次のようなメリットが期待される。小型で炉心が低出力であるため、事故の際に自然循環や自然放熱で炉心を冷やす「受動的安全」を確保しやすい。大部分を工場でモジュール(ユニット)として生産し現場で組み立てることから、建設期間の短縮(2.5〜4.5年程度)、初期コストの抑制が期待される。小型で離島やへき地等にも設置できる。生成AI用のデータセンター、水素製造プラント、海水淡水化施設、熱供給など多目的に利用できる。

SMRは、次世代の戦略技術であり、世界的に激しい開発競争が繰り広げられている。商業化では、ロシア、中国が先行しており、西側の原子力国として日米が協力して輸出を含めて推進することが重要戦略になってきている。2030年代前半の本格寄与が期待される。

西側技術の先陣を切るGE日立

GE日立・ニュークリアエナジー(GEH)が開発するSMR「BWRX-300」は、BWR技術の延長線にあり、北米において最も実用化に近いプロジェクトとして進展している。カナダのオンタリオ州で、商業炉の建設が2025年5月に始まり30年に運開する予定である。米国でもTVA(テネシー川流域開発公社)が先行採用し、計画を具体化させている。2025年5月に米国原子力規制委員会(NRC)へ建設許可申請が提出、2026年12月までに審査が完了する予定である。設置予定地は、テネシー州オークリッジのクリンチ川サイト(Clinch River Site)であるが、アラバマ州も検討対象となっている。実際の稼働は先になるが、両国共通の重要戦略としての意義が認められたと言える。

ニュースケール社のSMRは、事業性・信頼性等の確認を行っているところと考えられる。大型炉AP1000は、10基程度の建設が期待されている。商業化済みの安心感はあるが、金額が大きく、遅延リスクを伴うこともあり、調整に時間を要していることが推測される。いずれにせよ、SMR、大型炉は第2陣の文書に重要事項として載っており、第3陣以降での取り上げが期待される。

 今回は、3月19日の首脳会談で明らかになった日米戦略投資について、アラスカ原油インフラ、小型原子炉SMRについて、前編として解説した。後編は、AIデータセンター向けに開発される天然ガス火力発電についておよびに智弁戦略投資の全体図について、解説する。

著者略歴

山家公雄 エネルギー政策研究所長

1956年山形県生まれ。1980年東京大学経済学部卒業後、日本開発銀行(現日本政策投資銀行)入行。電力、物流、鉄鋼業界等の担当を経て環境・エネルギー部次長、調査部審議役等を歴任。2009年エネルギー戦略研究所㈱取締役研究所長、2012年山形県総合エネルギー政策顧問、2014年京都大学特任教授、2025年(一財)海外投融資情報財団シニアフェローに就任。2023年10月より現職。主な著作に「再生可能エネルギーの真実」、「日本の電力改革・再エネ主力化をどう実現する」「テキサスの電力市場・電力システム」などがある。

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