【AIデータセンターと電力システム改革⑰】PJMの大規模需要対策に制度設計の壁―FERC、IRASの主要部分を退け、RBPには追加審理(第42回)

データセンターと電力システム

エネルギー政策研究所長 山家公雄

はじめに――IRAS・RBPをめぐるFERCの判断

PJMでは、AIデータセンターなどの大規模需要の急増に対応するため、接続ルール、供給力確保、容量市場、送電網整備を含む電力システム改革が進められている。筆者はこれまで、PJMが提案した大規模需要対策と、その背景にある制度改革について、複数のブログ記事で解説してきた。

第32回では、PJMが打ち出したIRAS(Interim Resource Adequacy Service)とRBP(Reliability Backstop Procurement)の構想を取り上げ、供給力不足時の需要抑制と、追加的な供給力調達の仕組みを解説した。続く第38回では、PJM改革を「発電」「大規模需要」「供給力・容量市場」「送電網・系統計画」の4本柱で整理し、第39回ではIRASとRBPを中心に、大規模需要と容量市場の関係を詳しく検討した。

その後、FERC(米国連邦エネルギー規制委員会)は、IRASに関する提案の主要部分を認めず、RBPについては料金規定の提案を受理したうえで発効を停止し、費用負担などをめぐる追加審理を行うこととした。PJMが制度化を目指した二つの対策は、それぞれ異なる判断を受けたことになる。

今回は、これまでの解説を踏まえ、FERCの最新判断を整理する。そのうえで、二つの判断から浮かび上がる、大規模需要の接続、供給力確保、費用負担、市場の価格シグナルを整合させることの難しさを考えたい。

1.大規模需要の急増に、PJMはどう対応するのか

米国最大級の電力市場の一つであるPJMでは、AIデータセンターを中心とする大規模需要の急増と、それに見合う供給力の確保が重要な課題となっている。2028/29年度の容量市場では、必要な供給力に対して約6,831MWが不足する結果となった。

PJMは、この問題に対応するため、二つの制度を提案した。一つは、新たな大規模需要の接続と信頼度確保を結び付けるIRAS、もう一つは、不足する供給力を追加調達するRBPである。

ところが、FERC(連邦エネルギー規制委員会)の判断は、両制度で異なるものとなった。10月9日、FERCはIRASの主要部分と、これに関連するBYONC(Bring Your Own New Capacity)の提案を認めなかった。一方、RBPについては、9月29日に追加審理の手続きに入り、費用負担などの問題を検証することとした。

この違いは、単なる手続き上の差ではない。大規模需要への対応には、接続を認める条件、供給力を確保する責任、緊急時の需要抑制、追加費用の負担を整合的に設計する必要があることを示している。

2.IRAS――連邦と州の権限、容量市場の価格シグナル

IRASの狙い――大規模需要の接続と供給力確保

PJMが提案したIRAS(Interim Resource Adequacy Service)は、新たな大規模需要を接続する際、需要家側が新規供給力を十分に確保していない場合には、需給が厳しくなった際の需要抑制を条件とする仕組みである。PJMは、大規模需要の接続を進めながら、供給力不足による信頼度の低下や、既存需要家への費用転嫁を抑えようとした。

IRAS案では、系統の緊急度が比較的早い段階から対象需要を強制的に抑制し、任意参加のデマンドレスポンスよりも先に需要を遮断することが想定されていた。この運用が、州の規制権限や、容量市場を通じて供給力不足を価格に反映させる仕組みと整合するかが、重要な争点となった。

FERCの判断と残された制度設計上の課題

FERCは2026年10月9日、IRASとBYONCの提案の主要部分を認めなかった。判断の背景には、連邦と州の規制権限の線引きや、制度の妥当性・非差別性に関する立証不足などの問題があった。

第一は、連邦と州の規制権限の線引きである。

PJMは、IRASに伴う義務を主として配電事業者などに課す制度として説明していた。しかし、FERCが審査した料金規定の文言は、小売需要家に直接義務を課し、配電事業者に特定の需要家を抑制させる仕組みとも読める内容だった。

小売料金や小売需要家に対する規制は、基本的に州政府と州公益事業委員会(PUC)の管轄に属する。FERCは、提案された規定が連邦の権限を超えて小売需要家に義務を課したり、小売料金を事実上設定したりする可能性を問題視した。PJMの説明文書と実際の料金規定との間にも重要な相違があると指摘した。

したがって、問題は大規模需要に接続条件を課すこと自体ではない。どの需要家を、どの条件で、誰の権限によって抑制するのかを明確にし、連邦と州の役割分担に整合した制度にする必要があるということである。FERCは、需要抑制の優先順位などについて、州規制当局が重要な役割を担うことも指摘した。

第二は、容量市場の価格シグナルと競争をゆがめるおそれである。

PJMの提案では、新規大規模需要を支える小売供給事業者などに対し、需要規模に見合う新規供給力の確保を求め、条件を満たさない需要については、系統の需給が厳しい際に抑制することとしていた。

また、BYONCでは、新規供給力を大規模需要に対応する資源として位置付け、その容量評価を一定の形で固定する仕組みが提案されていた。FERCは、こうした扱いが実際の供給能力を適切に反映するのか、地域全体の供給力評価に新たなリスクを生じさせないかについても、十分な説明がなされていないと判断した。

例えば、PJMの容量市場では、従来、同じ送電サービスを利用する需要について、基本的に同様の扱いをしてきた。ところが、IRAS案では需要家の属性や需要の増加幅によって異なる義務が生じる可能性がある。FERCは、そのような差別的でない扱いを確保できることや、既存の商取引への影響について、十分な立証がないと指摘した。

この点については、ロスナー委員が別途公表した同意意見で、特に重要な問題として論じられた。IRAS対象需要を容量市場の需要曲線から除外すると、実際には供給力不足に備えて需要を強制的に抑制する必要があるにもかかわらず、容量市場では不足が小さく見える可能性がある。そうなれば、供給力不足を価格に反映し、新規電源への投資を促すという容量市場の機能が弱まるおそれがある。

ロスナー委員は、再提案する場合には、任意にデマンドレスポンスに参加している需要よりも、IRAS対象需要を先に強制遮断することの妥当性を説明すべきだと指摘した。容量市場が十分な供給力を確保できているかのようなシグナルを出しながら、実際には数千MW規模の需要を強制的に遮断する事態になれば、市場の信頼性にも影響するという問題意識である。

ただし、これはロスナー委員の個別意見であり、FERCの命令全体と区別する必要がある。FERCの正式な判断は、IRASとBYONCの提案について、連邦の規制権限を超える可能性、制度の妥当性・非差別性に関する立証不足などを理由に、主要部分を認めなかったというものである。これは、IRASという制度構想そのものが否定されたことを意味するものではない。PJMが制度の法的根拠や運用条件を見直し、改めて提案する余地は残されている。

FERCは、大規模需要の定義とLarge Load Registry(大規模需要登録制度)は認めた。定義では、単一の電気的なサイトにおける最大需要が50MW以上の需要を「大規模需要」とし、同一企業グループなどに属し、1マイル以内にある複数の負荷施設も一つのサイトとして扱う。データセンターに限らず、こうした規模の大きな需要を広く対象とするものである。

Large Load Registryは、大規模需要に関する情報をPJMが把握し、需要予測や送電網の計画・運用に活用するための登録制度である。

今回の判断は、大規模需要の情報を把握し、需要予測や送電計画に反映させることと、接続条件や供給力不足時の需要抑制を制度化することとでは、異なる論点があることを示している。

3.RBP――誰が追加調達費用を負担するのか

RBPの仕組みとFERCの判断

RBP(Reliability Backstop Procurement)は、PJMの容量市場で明らかになった供給力不足に対応するため、追加的な供給力を調達する仕組みとして提案されたものである。2028/29年度の容量市場では約6,831MWの不足が生じており、PJMは一回限りの調達を通じて新規電源などを確保し、供給力不足に備えることを狙っていた。

FERCは9月29日、RBPに関する料金規定の提出を受理したうえで、その発効を5か月間停止し、追加審理を行うこととした。提案全体を却下したわけではなく、費用配分など三つの論点について、追加の検討を求めたのである。

発効日は2027年2月28日とされたが、これは追加審理の結論を先取りするものではない。予定されていた9月30日の調達開始は実現せず、PJMは懸念点を修正する新たな提案も検討することになった。

費用負担と市場設計をめぐる課題

第一の論点は、供給力の追加調達費用を誰が負担するのかという問題である。

RBPの目的は、大規模需要の増加などによって生じた供給力不足を埋めることである。しかし、追加調達の費用を地域全体に広く配分すれば、新たな需要を生み出していない既存需要家も、その費用の一部を負担することになる。

FERCは、PJMが提案した費用配分方式について、供給力不足をもたらした需要や地域と、追加調達費用の負担との関係が十分に説明されていないと指摘した。新たな需要の増加によって必要となった供給力の費用を、どの需要家や地域に、どのような基準で配分するのか。費用発生の原因と負担の関係を明確にすることが求められている。

FERCが追加審理で重点的に検証するのは、供給力を確保する必要性そのものというよりも、そのための費用やリスクを誰に負担させるかという制度の具体的な部分である。また、一定の協同組合や自治体所有の電力事業者を費用負担から除外する仕組みについても、妥当性や非差別性に問題がないかを検証することとした。

この問題は、単に料金をどのように配分するかという技術的な話ではない。データセンターの新設によって必要となる供給力を確保するのであれば、その費用をどの程度、新規需要側に負担させるのか。需要の立地や規模、実際の需要見通しをどのように費用配分に反映するのか。これらを明確にしなければ、既存需要家への負担転嫁を防ぐことは難しい。

また、費用配分の前提となる需要予測が実際の開発計画や最新の需要見通しを適切に反映しているかも重要である。需要の伸びを過大に見積もれば過剰な調達や費用負担につながり、反対に過小評価すれば供給力不足を招きかねない。

第二は、送電事業者が制度から離脱する場合の費用負担と、電力供給事業者の担保の問題である。

送電事業者の離脱に関する規定について、FERCは、離脱する事業者などに割り当てられる費用が、その費用を発生させた主体に適切に配分されていることを、PJMが十分に説明できていないとした。費用の割当てが原因者負担と一致しなければ、他の事業者や需要家に費用が転嫁される可能性がある。

また、電力供給事業者に求める担保要件については、市場や他の参加者を債務不履行のリスクから守る必要がある一方、担保負担が過度に厳しければ、事業者の資金管理や市場参加の柔軟性を損なう可能性もある。FERCは、債務不履行リスクの抑制と市場参加者の柔軟性のバランスが、十分に説明されていないと判断した。

FERCは、PJMに対し、追加審理を待たずに懸念点を修正した新たな提案を提出することも促した。シー委員は同日の同意意見で、新たな費用を生じさせる需要家に適切な負担を求め、既存需要家への費用転嫁を防ぐことの重要性を指摘した。また、費用配分の基礎となる需要予測を改善し、どの地域で、いつ、どのような需要が増加するのかを把握する必要性も強調した。

一方、ロスナー委員は、長期的には臨時のバックストップ調達に依存するのではなく、需要家と供給側が自らのリスクを管理し、必要な供給力を確保する市場の仕組みを取り戻す必要があるとの見解を示した。

RBPは、供給力不足に対する緊急的な対応策として提案された。しかし、追加調達の費用負担や担保、事業者の離脱に伴うリスク配分が明確でなければ、制度を円滑に実施することはできない。供給力の確保を急ぐ必要性と、費用負担の公平性・制度の持続性を両立させることが問われているのである。

4.二つの判断から見える制度設計の難しさ

IRASとRBPは、異なる角度から大規模需要の増加に対応する制度である。

IRASは、新たな需要をどのような条件で接続し、供給力不足時にどう扱うかという問題に取り組む。これに対しRBPは、容量市場だけでは不足する供給力を追加的に確保し、その費用をどのように配分するかという問題に取り組む。

しかし、両者は独立した問題ではない。需要の接続条件は、供給力の必要量や需要抑制のあり方に影響する。追加的な供給力調達は、その費用を負担する需要家や地域の範囲に関わる。さらに、需要抑制の条件や費用負担の方法は、容量市場の価格シグナルや新規投資の誘因にも影響する。

つまり、制度を一つずつ設計するだけでは十分ではない。接続、供給力確保、緊急時の需要抑制、費用負担、市場価格の機能を、相互に整合する形で組み立てる必要がある。

今回のFERC判断は、PJMが大規模需要の急増に対応する必要性を否定したものではない。むしろ、その必要性に応える制度であっても、法的な権限、制度の公平性、費用負担の妥当性、市場の投資シグナルとの整合性を説明できなければ、そのままでは実施できないことを示している。

5.米国の電力改革をどう見るか

AIデータセンターの急増を受け、米国の電力システムでは、各RTOがそれぞれの市場制度や規制の枠組みを前提に、需要の接続と供給力確保のあり方を見直している。PJMの事例は、そのなかでも、既存の容量市場を維持しながら新たな大規模需要に対応することの難しさを示している。

もちろん、今回の判断だけでPJMの制度改革全体を評価することはできない。FERCの判断を受けた再提案や、今後の容量市場・接続制度の見直しを引き続き確認する必要がある。

それでも、今回の経緯から得られる重要な示唆は明確である。大規模需要の受け入れを進めるには、接続の可否だけでなく、必要な供給力を誰が確保し、系統制約や緊急時の対応をどう扱い、追加費用を誰が負担するのかを、制度全体として整合的に設計しなければならない。

PJMの事例は、AIデータセンター時代の電力改革が、設備の増強だけでなく、市場制度と規制の役割分担を問い直す課題であることを示している。

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