AI時代は“需要集約”が主役になる/ ソフトバンクソフトバンクのAI戦略(第22回)

データセンターと電力システム

エネルギ-政策研究所長 山家公雄

 米戦略投資第1陣にて、ソフトバンクグループが主導するオハイオ州のデータセンター向けガス火力発電が選定されたが、電力の買い手となるAI事業者の姿が見えてきており、一気に現実味を帯びる。発電事業としては、多くのハードルがあるが、電力を購入するAI事業者を集めることができるかが最大の焦点となる。

本稿のポイントは、「AI時代では、発電所を建てる能力以上に、“巨大AI需要”を集約できる能力が重要になる」という点にある。では、その「巨大AI需要」を誰が束ねるのか。オハイオ州10GW構想で中心に立つソフトバンクの役割は、まさにそこにある。今回は、これを解説する。

オハイオ州の大規模AI事業が示唆する事業性の考え方

 日米戦略投資がAI産業成長の突破口に

総額5500億ドルにおよぶ日米戦略投資の先陣を切ったのは、AIデータセンター(AI/DC)向け大規模電源事業である。オハイオ州の10GWはソフトバンクがコーディネートし、テキサス州およびペンシルバニア州の計9.4GWは米国最大の電力会社ネクステラが主導する。AIは米国にとり最重要の戦略産業であり、学習・推論を早急に進める上でAI/DCの早期整備は不可欠であるが、容量不足、煩雑な系統接続ルール等で電力確保に苦戦している。日米戦略投資という政策ルート(ソブリンルート)が突破口になることが期待されている。

 全米で最大・最強の電力会社であるネクステラがガス火力発電を主導することはよく理解できるが、大規模発電事業の経験の乏しいソフトバンクの主導はエネルギーの視点からは分かりにくい。現に、ソフトバンク主導について疑問視する報道もある。しかし、4月24日のNikkei Asia、およびそれを引用したロイター等の報道にて、大規模テック事業者が参加するとの情報が流れ、雰囲気は一変し、ソフトバンクの株価は急騰する。本稿では、オハイオ事業とソフトバンクの役割を通して、AIインフラ事業の特徴、そしてAI時代に変化を迫られる電力システムについて解説する。

結論に少し触れれば、AI/DC事業では、「電力を作れるか」より、「巨額コストを負担できるAI需要家を集められるか」が成否を左右する。この意味で、ソフトバンクは“発電会社”ではなく、“AI需要集約会社”として機能する。本稿でいう「需要集約」とは、巨大AI需要を束ね、電源・送電・テナント・資金調達を一体化するモデルを指す。

まず、ソフトバンクグループの株価推移を確認する。

ソフトバンクの株価推移にみるオハイオ事業の意義

 図1は、過去1年のソフトバンクグループの株価推移を示したものである。AI事業、オープンAI期待等で急騰し2025年10月1日に6930円を記録したが、その後巨額投資・負債が嫌気され、低下基調に転じ、3月11日には3350円まで下がった。

図1.ソフトバンクグループの株価推移(過去1年)

(出所)Yahoo!ファイナンス等の公開データを基に作成

 日米戦略投資関連の動向も、株価に大きく影響している。2025年10月20日にファクトシートにエネルギー、半導体関連でソフトバンクグループが名指しを受け、2026年2月17日に第1陣の最大事業としてオハイオ州のガス火力発電が選択された。同社への影響については巨額資金への懸念もあり低下基調となったが、3月20日に起工式が大々的に行われ、上昇に転じる。決定的だったのが、4月24日にNikkei Asiaがグーグル、マイクロソフト等のビッグテックが入札に参加するとの報道である。株価は急騰し、5月16日時点で6000円となっている。

 政府肝いりの建設計画では、巨額投資の懸念から株価は下がり基調だったが、データセンターのユーザーの顔ぶれが出て以来、市場はポジティブに反応した。ここに、AI時代の電力整備の特徴が垣間見られるのである。

買い手の存在が事業性を決める

強まる買い手(テナント)の影響力

 前回述べたように、AI競争の激化により、短期間で大規模データセンターを必要とするAI事業者は、AIサービスの付加価値が厚いこともあり、「特別負担、特別料金」を受け入れる姿勢を見せ始めている。高いAIサービスの利益率等の収入で、コスト負担増を吸収できる可能性が高いのである。

 すなわち、従来の電力事業のルールでは、AI/DCの導入は電源開発、インフラ整備、それを支える規制、地元の理解等課題の多い、リスクの高い事業となる。しかし、データセンターの利用者(テナント)の進出が確認されれば、サプライチェーンやエネルギー供給を含め、全体の姿が見えてくるのである。その意味では、「個々の課題を、巨大AI需要を前提とした大規模統合モデルで解くモデル」が登場した、といえる。オハイオ事業は、この時代の変化を提示するものであり、ソフトバンクの孫会長が中心に位置するとみることができる。

AIコーディネーターとしてのソフトバンクの意義

オハイオ州10GW構想の意味

 日米戦略投資は、データセンター向けガス火力発電事業が先陣を切った。第1陣でソフトバンクグループが主導するオハイオ州の9.2GW(投資額333億ドル)が、第2陣では、米国最大の電力会社であるネクステラが主導するテキサスの5.2GW、ペンシルバニア州の4.3GWが発表されている(投資額330億ドル)。ネクステラは、電力会社であり最適・最強の事業者として期待が寄せられおり、事業構造としても分かりやすい。

一方で、ソフトバンクは、情報通信が主業で、エネルギーは太陽光を主に再エネがメインであり、蓄電池に注力する意思を示したのは最近である。10GWに及ぶ火力発電を建設する経験はなく、ノウハウがあるとは思えない(当初0.8GW運開)。

 このソフトバンクが発電事業を主導することの危うさを指摘する報道もある。ソフトバンクは、ガスタービンは取得済みだとしているが、これは小型であり大型はこれから入手する必要がある。早期タービン入手を含めたガス火力事業への参加者を募る入札が行われる。また、この大規模発電計画は系統運用者等との事前調整はなく、接続できるか不透明である。さらに、トランプ政権は電気料金の高騰を気にしており、一般消費者への影響が及ばないことを前提としている。すなわち高くなるコストを料金で回収することは難しい、等々である。

変貌するデータセンター向け電力システム

 これらは、これまでの常識では、もっともな指摘であるが、AI/DC時代の電気事業が大きく変わることを念頭に置いていない。これらの課題については、十分に認識されており、ソフトバンク側(あるいは日米関係者)は、ある程度対策を示している。接続に関しては、運用機関であるPJMや規制機関であるFERCは、大規模需要者に責任を求める方向で議論が進んでいる。具体的な規制導入を決めた州政府もある。トランプ大統領は、3月に大手テック首脳をホワイトハウスにて、責任を負うことに誓約させている。すなわち、制度変更の方向は出ている。ソフトバンクは、送電線整備を負担すると明言している。

ソフトバンクはAI事業のコーディネーター

 ソフトバンクが、ガス火力発電の経験に乏しいことは周知のことである。ソフトバンクの役割は、AI事業をコーディネートすることであり、米国政府の文書にも明確に「コーディネーター」と紹介されている。データセンター建設に際し、電力調達は成否を左右する重要事項ではあるが、半導体の調達からテック企業の誘致を含め、幅広い関係者の合意収集が最重要課題となる。その役割を孫会長は担えるのではないかという期待が持たれたと考えられる。

ビッグテックの関心表明で雰囲気は一変

 4月24日付のNikkei-Asia等で「グーグル、マイクロソフトが参加、オープンAI、メタも関心」との報道が出て、一気に前向きな雰囲気となった。スターゲート構想でオープンAI、オラクル等との連携は知られていたが、グーグル、マイクロソフトも参加するとなると、オールテック参加の印象が強まる。この裏付けがあるからこそ、ガス事業者の参画が進むことになる。

超優良企業の電力買い手が見えてきた以上、事業の実現可能性は高まると認識されるのである。

 1兆円手数料の意味

 オハイオ事業に関して、ソフトバンクは1兆円ほどの手数料を求めたが、9割カットの1000億円に圧縮されたとの報道がある。国が関与する事業で、主な所有者でも出資も予定しない事業者が手数料を要求するのは不適切、との判断があったようだ。しかし、今後20年を見据えた超巨大AIデータセンター構想(10GW、総投資額5,000億ドル=約80兆円)をコーディネートする力量に対してしかるべき手数料(フィー)が認められてもいいように思われる。一方で、「国家関与事業における調整フィーをどう評価するか」については議論の余地がある。

終わりに AI/DCと電力システムの歩み寄り

 本稿は、戦略産業の重要インフラであるAIデータセンターの整備について、電力供給力整備に焦点を当てて解説した。大規模、迅速、集中、24/7利用という従来にない特徴があり、これに対応するには、従来の電力システムを変える必要があるが、公平性・透明性等の公共サービスの根幹を変えることは不可能である。

そこで、ビッグテック等は責任を負担する必要が出てくるが、事業全体を大規模化・ハブ化し、共同で負担する仕組みが必要になる。ソフトバンクの役割は、ベンダー、インフラ提供者、ハイパースケーラーをコーディネートする役割、特にハイパースケーラーを集約する役割である。この価値は非常に大きく、日本企業が参画しやすい環境を整えることに寄与する、と考えられる。

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