洋上風力R1再募集の上限価格が示すもの/「再エネの切り札」は名目化するのか(第30回)

洋上風力発電

エネルギ-政策研究所長 山家公雄

7月14日に、政府委員会にて洋上風力事業の採算が決まる条件が提示された。ラウンド1(R1)再募集の供給上限価格(入札上限額)は30円/kWh程度、R2/R3の長期脱炭素電源オークションの上限価格は約41万円/kW・年である。

本稿では、この価格水準が①R1再募集には依然として極めて厳しいこと、②一方でR2・R3事業については長期脱炭素電源オークションを通じて撤退回避の可能性を残す水準であること、③両者を同じ価格体系で設計した政府方針には課題が残ること、を解説する。

ラウンド1、2、3の現状

 一般海域の洋上風力入札は、R1では3区域が採択されたものの三菱商事が撤退し再募集となった。一方、R2・R3ではモノパイル方式5区域(243.9万kW)がゼロプレミアム入札となり、採算確保が課題となっている。以下、具体的に解説する。

R1で能代・三種・男鹿(41.5万kW)、由利本庄(73万kW)、銚子(37万kW)の3区域が採択され、三菱商事グループが総取りしたが、2025年8月に撤退し、再募集されることとなった(図1)。

R2の八峰・能代(37.5万kW)、男鹿・潟上・秋田(31.5万kW)、村上・胎内(68.4万kW)、R3の青森日本海南側(61.5万kW)、山形遊佐(45.0万kW)のモノパイル方式の5区域計243.9万kWは、ゼロプレミアム入札(3円/kWhで落札)であり、事業採算の確保が困難となっている。なお、R3の長崎西海(42万kW)は、ジャケット方式で、22.18円/kWhで落札しゼロプレミアム入札ではない。

図1.海洋再エネ整備法における案件形成状況

(出所)資エ庁:第1回再生可能エネルギー主力電源化小委員会資料(2026/6/3)より抜粋

7月中旬に上限価格等が出そろう

政府は、募集される入札条件、R2/R3の救済について議論を重ね、「事業の完遂が重要」との合意をみた。新規・再募集は上下限価格の導入と物価上昇への配慮、R2/R3のモノパイル方式の5案件(東北エリア)については長期脱炭素電源オークション(以下、長脱AXとも表記)への参加が認められた(政府が洋上風力入札条件の改訂案を提示|事業完遂に向けた課題とコスト試算 | エネルギー戦略)。

肝心の価格水準の提示が未済であったが、7月14日に洋上風力合同会議および調達価格等算定委員会が開催され、新募集の入札上限価格は「発電事業としての条件に優れ、コスト効率的に事業を実施できる海域から優先的に案件形成を進めることが望ましい」との基本認識が「30円/kWh程度までを優先的に案件形成を進める目安」とする方針が示され、了承された。

また、14日に次世代電力・ガス事業基盤構築小委員会・電力安定供給WGが開催され「第4回長脱AXにて、R2/R3の一般海域ゼロプレミアム入札の洋上風力事業のみの参加を容認、上限価格は約41万円/kW・年(東北エリア)、募集枠は50万kW」という方針が示された。

R1再募集には、非常に厳しい条件

合同会議が提示し、調達価格等算定委員会で了承された「30円/kWh」は、供給上限価格と考えられるが、日本風力発電協会(JWPA)がアンケートを基に試算していた40円台半ば(44円)を大きく下回る(イラン戦争後、洋上風力は最重要政策に|日本のエネルギー安全保障と入札価格問題 | エネルギー戦略)。政府は30円程度について「2025年2月に公表された発電コスト検証WGの30.9円、2026年2月にJWPAが提示した30円台半ばと整合性がとれる」としている。

しかし、「発電コス検証WG」、「JWPAの保守的な試算」そして「JWPAの現実の試算」は意味が異なる。発電コストWGの30.9円は標準モデルによる比較試算である。一方、事業者は実際の建設・運営費用に基づき投資判断を行うため、実際の供給価格は44円程度になる。この二つを同列に扱うことはできない。実際の入札を判断する場合は、「JWPAの現実の試算」が反映されるべきである。表1は、3ケースを比較した表である。

表1.洋上風力発電(モノパイル基礎) 価格評価の比較

(出所)資源エネルギー庁、JWPA資料を基に著者作成

発電コストWGの試算は、第7次エネルギ-基本計画の参考情報として実施された。2023年時点に新設・運開する事業で、各電源を共通条件で比較評価するためのモデル試算である。洋上風力は容量35万kW、資本費54.1万円/kW、IRR10%、運転期間25年である。

JWPAの試算は、2026年2月に、調達価格等算定委員会における事業者のヒアリングの参考として整理されたものである。JWPA資料には、委員会向けに控えめな前提で整理した「保守的な試算」と、実際の投資判断に近い前提へ置き換え可能な「現実的な試算」が併記されている。

容量45万kW、IRR6%、稼働期間35年は同一であるが、設備利用率は「保守的」が36.6%に対して「現実」は32%であり、kWh当り約4.7円の引き上げ要因となる。「現実」にのみ含まれる費用に、陸上送変電設備、基地港湾貸付料、地域共生費用が追加され約4.0円/kWhの引き上げ要因となる。他にも保険料、固定資産税、諸費用等がある。その結果、「保守的」の供給価格は30円台半ば(35円)、「現実」は40円台半ば(44円)と乖離が生じる。

今回は、入札を実際に行う際の判断である。基本計画の将来予想の参考とするための横並び試算や、低水準となる期待を込めた試算を前提に30円程度としているが、投資判断の前提として採用することには疑問が残る。なお、合同会議では、洋上風力の実情に詳しい日本政策投資銀行取締役の原田委員が「30円/kWhで実施できない場合はどうするのか」と経産省に疑問を投げかけていた。

なお、44円という試算は、IRR6%、運転期間35年という、発電コスト検証WG(IRR10%、運転期間25年)よりも収益率を低く、運転期間を長く設定した前提に基づいている。これは必要な供給価格を引き下げる方向に働く条件である。仮に発電コスト検証WGと同じIRR10%、運転期間25年を前提にすれば、必要な供給価格は50~60円/kWhを超える水準になる。

R2/R3事業完遂には、ぎりぎりのレベル

7月14日に開催された電力安定供給WGでは、2026年度実施(第4回)の長期脱炭素電源オークションの考え方について取りまとめが行われた。洋上風力は、R2/R3のゼロプレミアム落札事業(モノパイル方式)について、長脱AXの対象とすることは決まっていたが、入札上限価格と募集枠が提示された。

募集枠は50万kWとなったが、ゼロプレミアム事業は合計243.9万kWである。調整係数(ピーク需要時に稼働が見込める容量の最大量に対する割合)は26.9%(東北エリア)であり、入札量に換算すると65.6万kWとなり、15.6万kW不足する。これは落札量ベースでは58万kWの不足となる。不足分が次回に持ち越されるかが大きな論点となる。

入札上限額は、約41万円/kW・年と試算される。長期AXの算定基礎となる供給価格は、発電コスト検証WGの30.9円/kWhから政策経費を控除し物価水準を補正した後の31.9円/kWhとしており、以下の算定式で約41万円となる。

31.9円/kWh×8760時間×設備利用率39.3%÷調整係数26.9%≒40.8万円/kW・年

今回の上限価格の算定では、供給価格31.9円/kWhを固定費相当額とみなし、容量価格へ換算している。ゼロプレミアム案件はすべて東北地方立地であり、調整係数は26.9%となる。設備利用率39.3%は、R3公募時に政府が想定した前提値である。

この前提を置くと、おおよそ以下のような試算となる。

*約41万円/kW/年×75%(筆者の落札予想率)×30%(実際の調整係数予想)×20年

=約184.5万円/kW(20年間)

すなわち、20年間で約184.5万円/kWの長脱AX収入となる(筆者試算)。

*仮に、O&Mコストを2.76万円/kW/年とすると、20年間のコストは55.2万円/kW 

*184.5万円-55.2万円=129.3万円(資本費相当)となる。

従って、資本費がおおむね128.9万円/kW以下であれば、長脱AX収入のみから固定費回収が可能となる一つの目安と推計される。長脱AXでは収益の約9割を還付することが義務付けられているため、筆者の試算では採算を左右する分岐点に近い水準と考えられる。

不透明感が増す政府方針

三菱商事がR1事業から撤退して約1年、エネルギー政策の目標維持や地元自治体の強い事業継続要請もあり、採択済み案件を撤退させず運開まで実現する「事業完遂」の方針が出て約半年、漸く具体的な入札条件が提示されたわけだが、事業者にとり大変厳しいものとなった。

R1の再募集を含む新規募集について「コスト効率的に事業を実施できる海域から優先的に案件形成を進める」方針が示された。この方針は、R1再募集3事業の着工・運開時期だけでなく、R4以降の案件形成にも影響すると考えられる。30円/kWh程度という数字はその閾値とも考えられるが、非常に厳しい水準であり、事業者の投資意欲や地元自治体の期待に水を差す懸念が生じる。6月にエクイノール、7月にBPが日本からの撤退の検討を表明したが、日本市場の収益性に対する見方が厳しくなったことも背景にあると考えられる。

一方、R2/R3の長脱AX入札上限価格約41万円/kW/年は、採算を確保できるかどうか微妙な水準であるが、撤退は食い止めるのではないか。募集枠の50万kWは、1、2事業不足する水準であり、第5回長脱AX入札参加の容認が不可欠である。

現行制度では、新規募集の供給上限価格が長脱AXの算定基礎価格にも用いられる。前回は18円/kWh、今回は31円/kWhへ引き上げられた。仮に44円/kWhを採用すれば、長脱AXの固定費回収水準も大幅に上昇する。このため、新規募集の上限価格の設定が、長脱AXの支援水準にも直接影響する構造となっている。今回は、新規募集の上限価格を抑えることで、長脱AXの制度設計との整合性を図った可能性も否定できない。両者をリンクさせることは資本費の簡易計算としては理解できるが、必ずしも合理的とはいえない。別々に事業完遂の観点での判断が求められる。

政策体系について「コストのモニタリングを行い、案件形成の目安のあり方、産業基盤の構築、案件形成の進め方について、見直しを行っていく」方針も示された。制度を固定化せず見直しを前提としていることがうかがえる。

「切り札」が「名目」で終わりかねない分岐点

世界ではエネルギー安全保障の観点から、自国の再生可能エネルギーへの投資を積極的に支援する政策へ転換が進んでいる。日本でも洋上風力は「再エネの切り札」と位置付けられてきた。しかし、制度設計が実際の事業採算とかい離したままであれば、その看板だけが残り、案件形成は停滞しかねない。今回示された上限価格は、日本の洋上風力政策が実効性を持つのか、それとも名目だけに終わるのかを左右する重要な分岐点になるだろう。

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