エネルギ-政策研究所長 山家公雄
7月末以降PJMは、AIデータセンター等の大規模需要について、「供給力を確保していない新規大規模需要は、ひっ迫時に他の需要に先行して負荷削減の対象とする」「個別の負荷削減は、州の規制下にあるユーティリティが担う」とする制度案をFERCに提出する動きを進めた。連邦・州政府の「原因者責任」要請に沿ってはいるが、非常に厳しい案としてデータセンター側は断固反対、州側は困惑している状況にある。米国のAIデータセンター接続と電力システム変革問題は、最大の節目を迎えている。
供給力不足に追い込まれたPJM
PJMは、13州+DCにまたがり、人口約6700万人におよぶ米国最大の地域送電運用機関(RTO)である。需要が急増するデータセンターが立地するエリアでもあり、近い将来の需給ひっ迫が現実となってきている。多くの発電設備および大規模需要が接続を待ち、容量市場価格が急騰し、事情が異なる多数の州・ユーティリティ(TO/EDC等:Transmission Owner、Electric Distribution Company)との調整に時間を要する状況の中で、供給不足が現実の問題となっている。待ったなしの対応が求められている。
こうしたなかで、PJMは、①大規模需要の定義と接続の類型の整理、②発電設備の「特急接続」を可能とするEIT(Expedited Interconnection Track)の導入等を決めている。また、③容量不足を補うためにCfDを利用する追加容量募集の提案も行っている。これらについては、本シリーズで解説してきたところである(AIデータセンターが招く米国電力システム変革・中編/FERC改革とコロケーション論争 | エネルギー戦略)(【AIデータセンターが促す米国電力変革⑤】背水の需給ひっ迫防止対策を講じるPJM | エネルギー戦略)。
供給力不足を解消する策として大規模需要を遮断
しかし、AIデータセンター(以下、AI/DCとも表記)需要増に供給増が追い付かない懸念から、PJMは「供給力を十分に確保していない新規大規模需要を、ひっ迫時に他の需要に先行して負荷削減の対象とするルール」を導入したいと考えていた。これをPJMが実施するには、制度上大きなハードルがあり、明確なルールを打ち出せずにいた。一つは、停電が起きるような緊急事態に至る前の段階で、大規模需要を他の需要に先行して負荷削減(curtailment)の対象にできるか、という「公平性」の問題である。また、PJMはRTOとして個々の需要家を直接規制する立場にはなく、実際の負荷削減はユーティリティを通じて実施することになる。
供給力不足が最終手段導入の引き金となる
事態が急展開するのは、7月14日に最新の容量市場入札結果が判明して以降である。
2028/2029年度(Delivery Year)の入札では、容量価格が325ドル/MW・日と、3回連続で上限価格に張り付いた(図1)。一方、調達容量は信頼度基準を約6.8GW下回り、容量不足は2回連続となった。PJM全体が信頼度基準を下回るのは、2027/2028年度が史上初であり(約6.5GW)、今回の2028/2029年度は2回連続となった。
図1.PJM容量市場(BRA)約定価格の推移(Delivery Year)

(出所)PJM Base Residual Auction Reports(2015/16〜2028/29)を基に作成
一方、データセンターなどの新規大口需要については、2030年代初頭までに30~34GW、2038年までには最大70GW増加すると予想されている。すなわち、容量市場で既に不足が顕在化している一方で、今後も大規模な需要増加が見込まれることが明確になった。
PJMは、将来の容量不足への対応と新規大口需要の接続を両立する必要があると判断したのである。
急遽登場したIRASと追加容量調達(RBP)の変質
7月27日理事会で包括案を決定
PJMは7月27日、理事会決定として、データセンターなどの大規模需要への対応策を発表し、7月末からFERCへの申請手続きを開始した。供給力の確保が不十分な追加需要は先行的な負荷遮断の対象とする「IRAS」、金融支援と厳格な原因者負担を合わせた緊急容量調達「RBP」、そして大規模需要を把握する「登録簿(Registry)」が柱である。
本節では、PJMの理事会が7月27日に公表した大規模需要対策について具体的に解説する(図2、表1)。
図2.PJMが提案する大規模需要対策の全体像

(出所)各種情報を基に著者作成
表1.PJMが提案する大規模需要対策

(出所)各種情報を基に著者作成
PJMが打ち出した大規模需要向けの「暫定供給力確保」ルール「IRAS」
PJMが今回の大規模需要対策の中核として打ち出したのが、IRAS(Interim Resource Adequacy Service:暫定供給力確保サービス)の導入である。これは、新規大口需要が自ら新規電源などの供給力を確保していない場合、先行して負荷抑制(curtailment)の対象とするものである。「供給力を確保していない」とは、自家発を持たないことだけではなく、相対契約などによって必要な供給力を確保していない場合も含む。PJMは、IRASについてFERCへの申請に向けた手続きを進めている。
PJMは既に50MW以上の大規模需要について、確定(Firm)、条件付き確定(Conditional-Firm)、非確定(Non-Firm)といった接続・送電サービスの類型を整理している。大規模需要についても、供給力確保の状況に応じて系統利用上の条件を付ける考え方が明確になっている。
一方、IRASは、系統混雑だけでなく、供給力十分性という信頼度基準を判断基準に加えるものである。大規模需要の急増により、供給力を確保できるかが重要課題となった。直近の容量市場入札で、将来にわたりデータセンター需要は大きく、恒久的な対策が不可欠と認識されたのである。
登録簿を整備し、ユーティリティが個別遮断を担う
IRASでは、50MW以上の大規模需要を把握し、逼迫時の対応に活用するため、場所、規模、供給確保状況等を記した「大規模需要登録簿(Large Load Registry)」を導入する。この議論は、個別割振りを含めてPJMが実施すべきと意見があったが、PJMは、法的権限の制約から、個別の負荷配分は州規制下のユーティリティが担うとの立場を明確にした。登録簿は、IRASの実施に必要な大規模需要の把握・管理を担う。一方、RBPについても、大規模需要と供給力の関係や費用負担を整理するうえで、その情報が活用されることが想定されている。
RBPは緊急調達であるがIRASとも密接に関連
PJMは、7月31日に、緊急容量調達(RBP: Reliability Backstop Procurement)を、一度限りの措置として提案した。これは、既にFERCに提案している追加容量市場入札を改訂するものである。当初案は、15GW規模の新規供給力を、二段階で長期確保する。第1段階は発電事業者と大規模事業者が、PJM関与の下で「仲介型相対契約(Facilitated Bilateral Matchmaking)」を締結する。第2段階は、15GWの残差について「中央調達(Central-Procurement)」を実施するが、これはpay-as-bid方式で15年間のCfD契約を認める、というものであった。
修正案は、直近の2028/2029年度入札で生じた約6.8GWの信頼度要件不足を調達ターゲットの基準とし、大規模需要の登録情報等を踏まえて、関連する費用負担を明確化する。相対契約については、既に6月9日に提案依頼書を発行しており、中央調達入札と並行して進める。中央調達は9月末から10月にかけて実施し、12月までに結果を確定する。中央調達の募集量は、相対契約等で確保できなかった残余分となる。落札事業は15年間の容量確保契約(Capacity Commitment)を結ぶ。CfD等の容量調達に要する費用は容量増に応じてユーティリティに配分し、需要家への配分はユーティリティが決める。追加調達は、次期容量市場入札が開始される12月までに完了する。
RBPは究極のアメとムチ
RBPは、当初構想の最大15GW規模から、直近BRAの約6.8GWの不足分を基準とする規模へと見直され、費用負担の具体化は州・ユーティリティ側の責任となった。中央調達だけでなく、自家電源や相対取引によって必要な供給力を確保した需要についても、RBPの枠組みではPJMが容量としての有効性を確認することから、IRASの先行的な負荷遮断対象から外れるという仕組みが想定されている。これは重要である。
一方、15年間のCfD適用は発電事業者そして需要者への金融支援であるが、当初の容量や負担分配が15年間変わらないことはリスクでもある。そして15年間の契約期間終了後には、改めてIRAS上の供給力確保状況が問われる可能性がある。RBPはアメとムチの両面があるが、何よりも登録簿を通じてIRASルールの基礎が構築されることになる。
PJMの最終提案は実効可能か
IRASは批判が集中したPJMの「開き直り」か?
このFERC承認前のPJM案に、関係者から強い反発が起きた。
AIは政策的には戦略産業に位置付けられ、州・地方・ユーティリティにとり雇用・税収・事業拡大に寄与する。しかし接続待ち急増、系統容量不足、容量市場価格急騰が生じ、早急なAI/DC接続が実現できる解決策の提示が求められている。
一方で、AI/DCは水資源、電力、騒音、景観等に影響があり、反対意見が多くなってきている。電力については、データセンター等大規模需要の原因者責任を明確にし、コストや信頼度維持に責任を果たしすべきとの意見が強まってきている。こうしたなかで、RTOやFERCには早期接続への環境整備が強く要請されているが、特にPJMへの批判は強く、ガバナンス問題まで発展した。しかし、PJMにも制度や州との仕切りの問題もあり、明確な回答を出せずにいた。今回の案は、信頼度危機が明確になった中で、関係者の責任分担を明示したものと言える。
原因者負担の明示は政府方針に沿っている
政府側も、AI/DCの急増に伴う電力コストや系統整備費用を既存需要家に転嫁しないという方向を強めている。トランプ政権は3月、7月にビッグテク等関係者に「需要家保護誓約Ratepayer Protection Pledge」の締結を求めている。
電力料金や施設整備に関する権限を持つ州政府、公益事業委員会(PUC)は、管轄するユーティリティが整備する費用を回収でき、一般消費者に負担が及ばないように、大規模需要者との契約を規制する方針を打ち出している。
ユーティリティが最も恐れるのは、需要家の利用量低下や早期閉鎖によってインフラ増強費用を回収できなくなること、電気料金に影響が出ることである。期間を長く設定する、最低使用量を導入する、最大利用量を基礎とする等を提案するようになる。
その意味では、PJMが明確化した「原因者責任」の考え方に反対する理由に乏しい。問題は、RBPの期間が短く、PUCやユーティリティの準備が間に合うかである。また、IRASの導入でデータセンターが他州に移る懸念も出てくる。PJMは、原因となる大規模需要に対応した費用配分を基本としつつ、具体的な料金負担の方法は各LSEと州規制当局に委ねている。
州・ユーティリティにより異なる対応力
PJMは、系統全体の信頼度維持の観点から、ゾーン・エリアごとに必要な負荷削減量を設定する。一方、実際の需要家との接続・供給関係を持つユーティリティ(配電・小売事業者)が、PJMの指示・ルールに基づいて具体的な負荷削減を実施することになる。さらに、料金や費用負担については、州の公益事業委員会(PUC)が州法・規制に基づいて関与する。
このように、PJMが信頼度に関する基本ルールを定め、ユーティリティが個別の負荷削減を担い、州PUCが料金・費用負担を規制するという役割分担が想定されている。PJMが個々の需要家を直接規制するのではなく、RTOと州規制の境界を踏まえた仕組みである。一方、州やユーティリティによって制度や対応能力が異なるため、実際の運用には差が生じる可能性がある。
データセンター側は死活問題
IRASの実施は、データセンター側にとって死活問題となる。容量不足時に先行的な遮断を受ける可能性がある需要では、24時間サービスを前提とするAI/DCの事業モデルは成立しにくい。自家発や完全自立型マイクログリッドで対応することも可能だが、コスト負担は大きい。
PJMで導入されれば、他のRTO・ISOにとっても大規模需要対応のモデルとなる可能性がある。負担は甘受するにしても負荷遮断は断固反対、という立場である。IRASが実現すると、PJM以外のより柔軟なエリアへの移転が進むことが想定される。
命運を握るFERC判断
申請を受けたFERCの判断が注目される。秋から冬にかけて結論が出ると見られている。基本原則は「公平、非差別的」であるが、「信頼度が維持できず停電が頻発すると、それは本末転倒になる」との判断もありうる。PJMが原則を示してPUC・ユーティリティが個別判断をすることは、基本ルールとしては妥当と考えられるが、州やユーティリティにより状況は異なり、柔軟なルールが模索されると考えられる。
最後に 問われる「公平と信頼度」そして「連邦と州」の在り方、
最大の地域送電運用機関(RTO)であり、AI/DCの最大級の立地地点であるPJMは、コスト配分だけでなく系統の信頼度を維持するために、ひっ迫が予想されるときは大規模需要を先行的に負荷遮断するルールを提示した。また、負担と遮断の大枠はPJMが定める一方、具体的な負荷削減はTO/EDC等が実施し、料金・費用負担については州の規制機関が関与する。
電力システムの基本ルールである「公平、非差別」と、信頼度維持のために特定の大規模需要を先行遮断する措置が正面から衝突するとともに、連邦と州の役割の明確化を迫るものである。連邦規制機関のFERCがどのように判断するか、データセンターは立地選択を含めどのような行動に出るのか、どのような結論となるか山場を迎えている。
また、AIデータセンターを巡る米国の電力改革は、RTOによる「接続・信頼度ルール」と、州・PUCによる「料金・費用負担ルール」という二つの改革が並行して進んでいる。PJMが系統側から大規模需要の接続条件と信頼度を見直す一方、各州では、系統増強費用や長期的な需要家責任を誰が負担するのかという改革が始まっている。次回以降は、後者に焦点を当てたい。


コメント