【AIデータセンターが促す米国電力変革⑤】背水の需給ひっ迫防止対策を講じるPJM(第28回)

データセンターと電力システム

エネルギ-政策研究所長 山家公雄

 米国最大のRTOであるPJMは、供給力不足、接続行列の長期化、AIデータセンター需要の爆発という三重苦に直面している。大規模需要の接続ルール改革、発電設備等の特急接続、大規模需要向け緊急容量入札の実施等を矢継ぎ早に打ち出している。AIデータセンター導入を支える制度となるとともに、抜本的な電力制度改革につながる可能性を秘める。

窮地に陥るPJM

 PJMは、中西部から東海岸にかけて13州およびワシントンDCに跨る米国最大の送電運用機関(RTO)である。送電容量不足による大規模な発電設備接続待ち発生、老朽化が進む火力発電の休廃止増、AIデータセンター(以下、AI/DCと表記)等大規模需要の著増等により、需給はひっ迫し、電気料金は高騰している。

世界最大のデータセンター密集地であるバージニア北部をはじめ、ペンシュルバニア州、オハイオ州等計画が目白押しにある。図1は、2026年2月に発表された米国電力研究所(EPRI)の「データセンター電力需要見通し」で示された州毎の電力需要の推移と見通しである。PJMエリアに集中していることが分かる。

図1.米国・州毎のデータセンター公称電力需要容量の現状と見通し

(出所)EPRI:Powering Intelligence 2026(2026/2/25)

容量市場で発電設備に支払われる容量価格は、直近数年間で約11.5倍に上昇したが、需給ひっ迫に加えて、AIデータセンター需要の急増も価格上昇の大きな要因の一つとされている。

AIは戦略産業であり、インフラであるデータセンターの建設は国策として、地域経済効果として、大きな意味があるが、電気料金上昇は政治問題になっている。AIデータセンター投資を維持しつつ、電気料金上昇を抑えることが重要な政策課題となっている。PJMはその最前線に位置する。

電力システム改革が待ったなしである背景

系統計画では、長期の需要を予想し、需要以上の供給量が確保できるように発電設備が開発(接続)されていく。需要は不特定多数であり緩やかな伸びが前提となってきた。系統接続に関しては、現状(従来)は、発電設備と需要とで別々のルールとなっている。発電は、先着優先で潮流調査等により混雑等が生じないような手立てを施したうえで実際に接続される。費用は上流の送電線増強を含め原因者(発電事業者)負担となる。需要は、引き込み線等の専用設備は需要者負担であるが、上流のインフラは消費者全体による一般負担である。

必要とされる発電設備は、投資判断は卸市場の価格が指標となるが、全体の量は容量市場で一括して確保される。ピーク需要時に稼働可能な供給容量を想定し(需要曲線を作成し)、発電事業者等が入札し固定費用の一部を受け取る。落札価格が高いと設備投資を促すことになる。しかし、この市場設計は、急増するAIデータセンター需要と長期化する接続待ちを想定しておらず、従来想定していた役割を十分果たしにくくなっている。

PJMは2026年に入り、わずか半年ほどの間に「需要」「供給」「容量市場」の三つを同時に見直す異例の制度改革に踏み切った(表1)。以下で、解説する。

表1.PJMの需給ひっ迫対策

(出所)PJM、FERC資料等を基に作成

大規模需要接続ルールの策定

AI/DCの電力需要は大規模、局所集中、短期間接続要請、24時間365日稼働等の特徴があり、従来の系統計画、接続の前提を大きく超える。従来のルールのままでは逼迫・行列待ちは進行し電気料金は上がることになる。大規模需要にかかる接続ルールの見直しが喫緊の課題となった。

SPPが需要・発電・送電を一体評価する新制度を採用したのに対し、PJMは従来の接続制度を維持しつつ、大口需要向けの新たな接続区分を設ける方式を採った(【AIデータセンターが招く米国電力システム変革・その4】SPPが始めたAIデータセンター接続の新ルール | エネルギー戦略)。

連邦エネルギー規制委員会(FERC)は、2025年12月にPJMに対して「大規模需要の自家発併設を含む接続に関するルール策定」を命じた。PJMは2026年2月に以下の案を提示した。

・大規模の閾値(いきち)を50MWとする

・接続の種類として、①確定(Firm):いつでも接続可能、②条件付き確定(Conditional-Firm):予め決めた制約以外は接続可能、③暫定(Non-Firm):混雑・逼迫時は非接続、の3種類で、いずれも関連費用は100%原因者負担となる。

・3年間の経過措置

大規模需要は、②で短期間にて接続し、送電増強を待って①に移行する戦略を採ると予想される。FERCは、6月18日にいくつかの修正を付して承認した。PJMは8月17日までに詳細設計をまとめ、9月1日より実施する。骨格はPJM提案の通りであるが、FERCは、以下のように、厳しく修正を行った。

・周波数調整、ブラックスタート、混雑処理(リディスパッチ)費用は100%需要者負担

・条件付き確定の条件について具体的に定める。①接続できない時間を年単位で決める(例:年間150時間)、あるいは②特定の送電インフラについて利用率が95%を超えるときに非接続。

  

発電設備「10か月特急接続EIT」の導入

次に、発電設備の接続待ち対策である。PJMは、長年守ってきた先着順原則に例外を設け、一定条件を満たす大型案件だけを最優先で審査することに踏み切った。

PJMの接続待ちは5~8年と長い。データセンターの建設期間は2~3年であり、ミスマッチは大きい。PJMは、先着順に例外を設ける「高速接続トラック(EIT:Expediate Interconnection Track)」を導入する。「すでに着工準備が整っている(shovel-ready)250MW以上の大型発電・蓄電池プロジェクト」に限り、大渋滞している通常の審査行列(キュー)から引き抜いて、わずか10ヶ月で接続契約を結ぶのである。2027年12月末までの期間限定の「救済特急レーン」をつくることした。

条件は厳しく、年間10件に限定(期限まで20件)、250MW以上の規模、3年以内に商業運転できる証明、高額の審査手数料・保証金の支払い、州知事等の政治的な裏付け等である。

PJMは2026年2月27日にFERCに申請し、FERCは6月9日に承認した。7月31日に申込受付がスタートする予定である。FERCの審査基準の大前提である「公平性」「合理性」が大きな論点となり、実際に接続順番を飛ばされる事業者やPJMの監視機関等から強い反発が起こったが、FERCは合理性ありと判断した。従来ルールのままで放置する場合、逼迫の危機、料金高騰の可能性が斟酌されたのである。連邦政府や州政府の圧力が影響したことも否定できない。

大規模需要に厳しい接続ルールという「ムチ」を課し、供給側に10か月接続という「アメ」を与えることで、需給ひっ迫を緩和しつつ、公平性への批判との両立を図ろうとしている。

容量市場の追加入札にPPA、CfDを適用

大規模需要の接続ルール、供給の緊急接続ルールを整備した訳であるが、不足する供給容量追加を保証する異例の追加措置を導入する。供給容量を確保する場として容量市場が存在しており、卸市場と並んでPJM市場の根幹を形成している。しかし、膨大な接続行列やルール変更議論による入札時期の延期により、容量は不足し2027年にも逼迫する懸念が生じている。

2025年容量オークションで供給不足が明らかとなったため、不足分を補うべく、追加入札を講じることとなった。PJMは、2026年4月に提案し、7月には関係者調整を終えて正式にFERCに申請する予定である。9月実施を予定しており、FERCは8月に承認すると見込まれている。概要は、以下の通りである。

・募集規模は約15GWで、大規模需要(50MW以上)向けに限定される。

・第1フェーズは、相対取引(PPA)であり2026年9月に募集開始。契約期間は自由。

・第2フェーズは、残余分についての入札で、pay-as-bid方式(2027年3月予定)。契約期間は原則15年で、容量市場価格を参照とするCfD取引が認められる。

・約15GWは、その後の容量市場にゼロドルで入札する義務を負う。

 このスキームでは、主たる取引は第2フェーズになると予想され、第1フェーズでもCfD取引になると想定される。容量市場は、ほぼすべての発電事業者等が参加する「市場取引」であるが、このシステムでは、大規模需要が主導し、大規模発電・蓄電池が応じる形であり、市場価格シグナルが弱まり将来の調達力が見えにくくなる懸念がある。従って、「一回限りの実施」が強調されている。PJMでは、上下限価格の導入、固定費指標(ネットコーン)の見直し等の抜本策が議論されている。

冒頭で、「PJMは2026年に入り、わずか半年ほどの間に「需要」「供給」「容量市場」の三つを同時に見直す異例の制度改革に踏み切った」と記したが、個別事業が3つの制度全てに選定される可能性もある。事業者そして地方政府は争奪戦に加わることになる。

市場か計画かの議論の引き金になる可能性も

米国の電力システムは、効率・公平・透明性を目的に、地域独占・垂直統合型から市場化へと移行した。その象徴が送電線開放・卸市場の創設である。RTOは担い手であり、PJMはその代表選手である。再エネの普及、AI/DC等大規模需要の登場等により、PJMのシステムは揺らいでおり、従来ルールの変更や一回限りの対策が採られようとしている。市場化前の仕組みに全面的に戻るとは考えにくいものの、市場原理と計画的調達のバランスは見直されつつある。

PJM、ERCOT、SPPはいずれもAIデータセンター時代への対応を進めているが、その制度設計は大きく異なる。次回はPJM、ERCOT、SPPを比較し、市場原理と計画的調達という視点から、それぞれが目指す電力システム改革の方向性を整理する。

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