エネルギ-政策研究所長 山家公雄
参政党、日本保守党等の保守色の強い政党が国会論戦で活躍しているが、エネルギー政策に関しては、原子力を評価し、再生可能エネルギー(以下、再エネ)に否定的な発言が目立つ。中東発エネルギー危機のさなかにおいても、基本的に変わらない。エネルギー安全保障を強調する一方で純国産エネルギーである再エネを低く評価するのは、矛盾しているように見える。これは保守系の論客にも見られる傾向である。
本稿では、保守系政党・論客が再生可能エネルギーに厳しい理由を、①燃料と設備の混同、②電気料金構造の誤解、③安全保障概念のアップデート不足、という3点から整理し、再エネが本来保守的価値と親和的であることを示す。なお、②については「なぜ再エネ賦課金だけが嫌われるのか|制度の仕組みと不満の根拠を読み解く | エネルギー戦略」で詳説しており、今回は簡潔に記す。
中東発エネルギー危機と保守系のエネルギー政策
石油危機を超えるイラン戦争の影響
イラン戦争で、ホルムズ海峡は事実上の封鎖状態となり、世界で流通する原油とLNGの約2割が輸送困難となった。量的な影響は石油危機時をはるかに超え、石油とガスの同時遮断も例がない。国際エネルギー機関(IEA)のファティ・ビロル事務局長は、「1970年代の2度の石油危機と2022年のロシアによるウクライナ侵攻の混乱をすべて合わせたよりも深刻である」と繰り返し警告している。
各国は代替調達に奔走しており、備蓄取り崩しを行っているが、ホルムズ海峡の閉鎖が続く限り使える量は減っていく。特に、成長をけん引してきたアジア諸国への影響は大きく、日本は石油製品を含めサプライチェーンを同地に大きく依存している。もちろん、化石資源のほぼ100%を輸入にそして原油の95%を中東に依存している日本は、極めて脆弱な構造にある。発電電力量の4割を占めるLNGは、国際取引の2割を占めるカタールが生産設備損傷を含めて影響を受けており、また、備蓄面で脆弱であることも浮き彫りとなっている。
歯切れが悪い中長期対策
この未曽有のエネルギー危機の中で、政治はどう動いているか。世界中から原油や石油製品そしてLNGをかき集め、備蓄を放出する。また補助金でガソリン価格を抑える等の対策をうっているが、当面の対応策である。エネルギーの自立をどう達成するか、化石資源および中東依存をどう減らすか、が中長期的・構造的な対策となるはずである。
これに関しては、中道系の政党が省エネや再エネ推進へ舵を切ることを訴えている。保守系は、原子力活用や調達多様化は明言するが、省エネや再エネについては歯切れがよくない。石炭火力を高効率と評価する向きもあるが、これは短期対策である。保守的価値とは「エネルギー自給は国家主権の根幹とみなす」ことと考えられるが、構造的な言動はまだみえない。
微妙に異なる保守系政党の立ち位置
ここで、各政党のスタンスを確認してみる。自民党保守派は、食料やエネルギーの安全保障、自給確保を重視する。目立つのは小型原子炉(SMR)、核融合を含む原子力発電の活用である。再エネは、地上設置太陽光発電に厳しい姿勢がみられるが、ペロブスカイト支援等産業政策的な視点での期待が示されるようになってきている。日本維新の会は、明確に原子力推進であるが、基本的に市場に任せるスタンスである。国民民主党は、電気料金に焦点を当て、再エネ賦課金支払いの停止を主張し法案も提出したが、個別の電源について特段の主張はみられない。参政党・日本保守党は明確に親原子力、反再エネである。再エネはコストが高い、太陽光発電パネルは中国製である、FIT制度・再エネ賦課金は廃止すべき等を主張する。
一方、いずれも輸入燃料に依存する火力発電については目立つ主張は見えない。
本稿の結論は単純である。再生可能エネルギーは、保守が重視してきた「国家存続」「安全保障」「現実主義(責任ある政治)」と本来矛盾しない。むしろ、従来の安全保障観がアップデートされていないことが、再エネへの誤解を生んでいる。なお、本稿は特定政党や人物を批判することを目的とするものではない。保守が本来重視してきた価値と、現在のエネルギー政策言説との間に生じている「ズレ」を点検するものである。
発電用燃料と太陽光パネル
自給を強調しながら再エネ下げの不可解
エネルギー自給率を上げることは、国産エネルギー資源を使うことと同義である。エネルギー政策上、それ以外に解釈の余地は小さい。エネルギー資源は、火力発電や原子力発電の燃料や太陽光、風力、水力、地熱、バイオマス等の再エネ資源のことである。LNG、石炭は石油とともに100%近く輸入である。
原子力も天然ウラン、再処理後のプルトニウム・ウランから成るモックス燃料は100%、濃縮ウランはほぼ100%を輸入しており、国内再処理施設はまだ稼働していない。原子力は、燃焼(装荷)期間が長いこと等から「準国産」と称されている。エネルギー自給率算定上は国産扱いだが、燃料供給の実態は輸入依存である。自然エネルギーは、完全(純粋)国産資源であり、自給率を上げるための主役になる。保守論陣が再エネを批判していることと整合性が取りにくい。
安全保障の最大の課題は100%近い燃料輸入
輸入資源がどうして安全保障上の課題であるのか、緊急時に途絶となるリスクがあるからである。地政学上、戦争・紛争時等で輸入ルートが機能しなくなるリスクがある。また、国際資源価格の変動にさらされるリスクがある。オイルショックの影響は甚大だったが、最近ではウクライナ侵攻、パナマ運河の水不足による通航制限、アラビア海等での輸送船攻撃、そして直近のイラン戦争による中東エネルギー危機がある。
台湾有事等により南・東シナ海閉鎖が生じれば、国家存亡の危機にもなりかねない。国産の再エネは量・価格ともにそのリスクがない。
燃料の扱いが小さい理由①:「安定調達」への置き換え
保守系論客は輸入資源のリスクについてあまり取り上げないのはなぜか、敢えて理由を考えてみる。まず、安全保障は「安定供給」そして「安定調達」という言葉に置き換わり、「これまで調達できているのだから継続できるだろう」という前提にたっている。商社等の努力により、概ね安定調達は維持してきているが、今回の中東発エネルギー危機は次元が異なり、今後も何が起こるかは予想できない。安全保障は緊急時への備えのことである。
燃料の扱いが小さい理由②:「国産設備」への置き換え、中国産パネルを批判
次に、「安全保障は国産設備が担う」という置き換えである。原子力、火力はほぼ国産設備であるが、太陽光パネルは多くは中国産であり、風車は外国産(欧米メーカー)である。設備は初期投資に影響するが、完工後は数十年稼働し続ける。少なくとも毎年調達が必要な燃料とは比較にならない。パネルの価格が継続して下がってきており、初期投資に占める割合は最近では2~3割程度である。パワーコンデショナー、架台等は国産が多く、工事・人件費は国内調達である。「中国製パネル=安全保障リスク」という主張が、「毎年輸入が必要な燃料」と同列に語られている点にこそ、論理の飛躍がある。
4月より中国産パネルの輸出価格が、輸出増値税還付(約9%)を完全に廃止したことを機に引き上げられた。かねてより、中国では過剰生産能力と過度な価格競争が問題視されていた。また、輸出急増に対する国際的な批判も高まっていた。その是正過程と考えることもできる。欧米は、過度の中国依存を課題ととらえ、輸入を減らし国内生産を増やす構造改革に取り組んでおり、国際的なサプライチェーン再編が進んでいる。特に米国では、モジュール生産能力が需要量を上回る等の成果が出てきている。日本も、「パネルは中国産なので再エネ導入をやめる」から「国内生産を含むサプライチェーン再編を主導する」への転換が必要であり、これは保守の思考と考えられる。
保守派の批判が集中する再エネ賦課金
保守陣営で多いのは、再エネのコストが高いとの批判である。資本費の劇的な低下により、太陽光・陸上風力は、世界的には最も安い電源となっており、最近では資金不足の途上国でも急速な普及が見られる。日本でも、新設される太陽光発電のコストは平均的な市場価格とそん色がない程度に下がってきており、今後設備の新陳代謝により着実に低くなることがみえてきている。
可視化される再エネ賦課金、されない燃料費
日本で再エネは高いとされる論拠として、再エネ賦課金の負担が挙げられている。再エネ賦課金とは、再エネの発電原価と市場価格の差を補填する費用を電気料金として消費者が負担する制度であり、単価(円/kWh)として設定され、請求明細等において可視化される仕組みとなっている。賦課金単価は、LNG価格高騰により市場価格が上がる局面では、差はマイナスとなり、電気料金に還元されることになり、燃料価格変動を吸収し安定化する役割もあるのだが、あまり指摘されない。
発電電力量の約7割を火力に依存しているため、特に燃料価格が高騰する局面では、電気料金の過半(状況によっては6〜7割)を燃料費関連のコストが占める構造となっている。また、LNG価格の変動により料金は大きな影響を受けるが、実際に電気料金に補助金が交付されるのはLNG価格が高騰するときである。2022~23年のウクライナ危機時に実施された。しかし、火力発電が電気料金高騰の原因だとする声は大きくない。それは、燃料費の影響が見えないからである。燃料費の数か月の変動分は「燃料費調整費」として料金票に明示されるが、累積費用の多くは基本料金のなかに紛れて見えない。補助金は、基本的に燃料費への補助であり、燃料費調整費を減らすことになる。
補助金込み燃料費の可視化が不可欠
図1は、電気料金の例として、全国の1/3を占める首都圏の推移を示したものである。本ブログNo.9で示した図の再掲である(なぜ再エネ賦課金だけが嫌われるのか|制度の仕組みと不満の根拠を読み解く | エネルギー戦略)。電気料金に占める燃料費が大きいこと、価格変動の主要因となっていることが分かる。
図1.年間電気料金における燃料調整費用、再エネ賦課金の推移
(400kWh/月の標準家庭、2020~2024年度)

(出所)資源エネルギー庁・電力各社公表データより作成
再エネは電気料金高騰の原因である、という印象はこの「可視化」がされているか否かの影響を大きく受ける。事実上、可視化されるのは再エネ賦課金だけともいえる。これは、電気料金の問題だけではない。むしろ、いかに輸入燃料に対する支払いが大きいかを実感できる機会を逸することで、安全保障の危機感が小さくなる影響が大きい。
安全保障の新たな視点:分散型・レジリエンス
評価が急上昇するレジリエンス(危機からの回復力)
一般的には、エネルギー安全保障は、国内資源を活用することが第一で最大の対策となる。日本は、各種再エネ資源が豊富に賦存している。「燃料価格」がゼロであり、資本コスト(初期投資)は設備投資を積み上げていくうちにスケールメリットで減少していくことから、長期的にはメリットが見込まれる。
再エネには、もう一つ大きな特徴がある。一件当たりは小規模だが、「大量に」「どこにでも」「迅速に」導入できる。これは「分散型」であり危機管理、レジリエンス(危機からの回復力)に優れている。敵国等からのインフラ攻撃やサイバーテロへの対策が重視されるなかで、分散型は、安全保障の要に昇華しつつある。米国等では、軍事施設や重要インフラにおいて、再エネと蓄電池を組み合わせたマイクログリッドが重視されており、分散型電源の戦略的重要性を象徴している。
一方、巨大集中型インフラは、サイバー攻撃、ドローン攻撃の対象となり易く、災害時に大規模停電が生じやすい。
従来のエネルギー安全保障は、原子力、火力、再エネ等の電源、個別技術で語られることが多かった。しかし、時代はシステムに移ってきている。レジリエンス・分散型の重要度が増している。
保守陣営がエネルギー政策を見誤る要因は何か
以上、本来再エネが安全保障の中核となるべき理由を整理してきた。保守派が純国産で分散型である再エネに距離を置く理由は何であろうか。要因を列挙してみる。
・燃料の「安定調達」を評価(無意識の前提)
・「国産設備」を評価
については解説した。根本にある考え方として、
・中央コントロールを是とする「基幹電源」の評価
がある。また、保守派の深層に存在する
・再エネ≒環境派(リベラル)というラベリング
これらは、「一昔前の常識」であり、近時の動きを十分に織り込めていない面がある。再エネは世界的に普及しており、その勢いは今後も続く。コストが最も低くなっている地域が多くなり、分散型への評価は高まっている。技術革新でも主流になる。
終わりに 保守派が語るエネルギー安全保障論のリスクに留意
最近の日本は再エネ下げの論調が多い。特に、保守系と目される政党や識者の言動が目立つ。エネルギー、特に電力を正確に理解することは容易ではない。分野が、工学(系統・容量・安定性)、経済学(限界費用・価格形成)、国際政治(資源・地政学)、制度設計(市場・規制)等多岐にわたり、全体的な理解がないと、間違ってしまう。一部の分野で一流であっても、必ずしも正しい結論には結びつかない。知名度の高い方の発言は影響力が大きいが、それゆえに全体を理解する謙虚な姿勢が求められる。また、受け止める側も十分な留意が必要である。中国依存や景観・災害リスクへの懸念には一定の合理性がある。しかし、それだけで再エネ全体を否定する議論は、エネルギー安全保障全体を見誤る恐れがある。
エネルギー安全保障の基本は、国産資源の活用であり、輸入資源の削減である。電源としては完全国産の再エネそして準国産の原子力が主であり、両者の二項対立とはならない。原子力はベース・長期安定電源として活用、再エネは分散型・価格安定・国産資源として最大化、火力は調整力・非常時対応として限定的に維持という役割を担うことになる。また、システムとしては分散型の再エネ・ストレージを基軸に火力等の柔軟性を組み合わせることであろう。
これは、世界の潮流にも合致する。保守的価値である「現実主義(責任ある政治)」「国家存続」とも整合的である。エネルギー政策は国益に直結する重要な論点である。再エネを含めた冷静で全体的な議論こそが、保守が掲げてきた「責任ある政治」をエネルギー政策において具体化する道である。


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