No.10 トランプのエネルギー政策を完全否定、2025年豪州総選挙は与党労働党が圧勝

豪州のエネルギー政策

エネルギ-政策研究所長 山家公雄

 2025年5月3日に投票された豪州総選挙は、アンソニー・アルバニージー首相率いる与党・労働党が圧勝した。労働党は苦戦が予想されていたが、トランプ主義や野党保守連合が掲げた原発導入に対する世論の反発が大きな要因となった。労働党は2022年5月に政権を奪取して以降、エネルギー・環境政策は、石炭から再エネへの転換を主にグリーン化を推進してきているが、これに拍車がかかることになる。

労働党が単独過半を占める

 豪州は、5月3日に、下院全体(150議席)と上院半数(40議席)の選挙が実施された。当初の予想に反して、与党労働党が自由党代表ピーター・ダットン氏率いる野党保守連合を圧倒した。トランプ主義への反発が大きく影響したことは間違いなく、4月28日のカナダ選挙でマーク・カーニー首相率いる与党・自由党が劣勢を覆し勝利したことと同じ流れである。

選挙前は下院総数150議席のうち、労働党77、保守連合(自由党、国民党)53、緑の党4、独立系12、その他2であった。労働党は前回(2022年5月)の総選挙で政権を奪取し、緑の党と独立系議員の協力を得て政権運営を行い、温暖化対策を積極的に進めてきた。独立系は環境を重視する保守であり、リベラルと保守の中間的な存在である。

 選挙結果は、下院は労働党94、保守連合43、緑の党1、独立系10、その他2となった。労働党は単独で圧倒的過半を占め、政権運営は容易になる。上院は、労働党は28議席(非改選を含む、改選前25)、保守連合は27(30)、緑の党11(11)、その他10(10)である。

論点は生活費用と原発の是非

 今回の主な争点は、住宅・ヘルスケア等インフレにより高まる生活コスト、禁止されている原発開発・導入の是非であった。豪州は2期連続の政権維持は難しいとの伝統があり、今回の続投は21年振りとなる。投票日の数週間前までは、生活費用高騰もあり、世論調査では保守連合が優勢であった。

トランプ効果は保守連合に逆風

劇的に情勢が変わったのは、「トランプ効果」による。2月28日のトランプ大統領とゼレンスキー・ウクライナ大統領の論争で、トラン大統領のイメージは悪化した。ウクライナ侵攻は、資源価格の高騰をもたらしたが、資源国である豪州は、資源企業は価格高騰の恩恵を受ける一方で消費者はコスト増に見舞われた。ウクライナ侵攻は豪州にとり身近な問題である。決定的だったのは、4月2日に発表された10%関税である。豪州は対米では輸入超過であり、相互関税強要は専制的で強引な手法と映る。アルバニージー首相は「友好国の仕業とは思えない」と反発した。

一方、保守連合のダットン代表は、トランプ政権の当初の勢いに乗るべく、トランプ礼賛とトランプ風の政策を打ち出していた。第一次トランプ政権の時代に貿易担当大臣として米国と関税交渉を行った経験を披露し「トランプ大統領と正面から渡り合える」とした。連邦政府について規模縮小とリモートワークの禁止を掲げる。シャドーキャビネットの行政改革大臣であるジェシンタ・プライス上院議員は、MAGA(アメリカ第一)と記された赤い帽子を被りかぶり活動する。生活コストはガスの利用により引き下げる。環境・エネルギー政策では、禁止されている原子力発電を導入し、その間は火力発電で安定供給する、とした。トランプ政権の施策と似ているのである。ダットン氏は「安物トランプ」と揶揄された。

因みに、カナダ保守党のピエール・ポワリエブル党首は、「カナダのトランプ」と称され、規制緩和と化石燃料の利用拡大、過去10年間の気候変動政策撤廃等を公約に掲げたが、大敗し自らも落選した。

国内でトランプ政権に対する批判が高まるなかで、次第に保守連合に対する支持は下がった。世論調査では去年11月以降保守連合が上回っていたが、ことし2月頃から下がり始め3月には労働党が逆転した。投票日直前にて両者の差は4ポイントに開いていた。

「エネルギー国民投票」 再エネvs原子力は再エネに軍配

内政での最大の相違は、エネルギー政策である。労働党は、緑の党や独立派の協力を得て、再エネによる石炭火力代替を軸とするグリーン化促進を強力に進める。一方、筋金入りの保守と言われるダットン代表は、脱炭素は原子力発電を軸に実現すると訴える。

労働党は、2022年5月に政権を奪還後、2030年再エネ電力82%を要とするエネルギー・環境政策を推進している。エネルギー市場管理機関(AEMO:Australian Energy Market Operator)が試算・策定する包括的かつ具体的なロードマップである統合システム計画(ISP:Integrated System Plan)に沿って着実に推進している。再エネは急速に普及し現在電力の4割を占める。

AEMOは、豪州におけるマーケットオペレーター、連系線を主とするグリッドオペレーターであり、日本ではJEPXおよび電力広域的運営推進機関(OCCTO)に相当する最重要機関である。ISPは、2年毎に改訂される「電力インフラ整備計画」であり需要、電源種、蓄電設備、信頼性、コスト、CO2排出等を総合的に勘案して策定される。直近は2024年6月に公表されており「再エネにより石炭火力を代替し、蓄電設備で調整し、5%の水素火力でバックアップすることが最良の途、2030年再エネ82%は達成可能」と結論付けている。

保守連合は、再エネ主導はコスト、信頼性の面で課題があり、原子力発電を軸に火力発電を利用すべきとする。豪州は、原子力活動禁止法により1983年以降原発建設は禁止されているが、このルールを変え、2050年までに5州7ヶ所で建設する。2035年までに小型原子炉(SMR)1基、2037年までに大規模原子炉1基を導入する。原子力のスケジュールに合わせて、火力発電を稼働するとする。

この方針は、根拠が曖昧で評判が悪かった。原発についてコスト、スケジュールが楽観的に過ぎる、そもそも立法、地元説得ができるのかとの疑問が提起され、非現実的で「ファンタジー」とも指摘された。ダットン氏は「エネルギー政策を巡る国民投票」と位置づけ、自身の選挙区(クィーンズランド州ディクソン)を立地候補として挙げ、ある意味不退転の決意で臨んだ。しかし、民意は明確にノーであり、自身も落選した。

保守連合は、説得力に欠けることを認識していたのか、選挙の主論点になることを避け、エネルギー政策の具体策を公表したのは、500万人もの不在投票が終了した5月1日であった。静かにリリースされたが、内容は現状の労働党政権の施策をほぼ全否定するものであった。原発も2040年頃までに2基導入と「後退」していた。

一方労働党は、4月28日に「保守連合の原子力計画は総出力11GWで6000億ドル(56.7兆円)の負担」との説を流した。保守連合は「6000億ドルは公式発電コストの5倍」と反論したが、この原発高コストのインパクトは大きかった。公式発電コストとはCSIROによる試算である(後述)。労働党の説は、公式数字はリプレース前提であり当初数基の建設は2倍そして小型原子炉(SMR)は2~4倍する、公式の資本費自体が過小評価されている、老朽化した火力の維持費用が加わる等が勘案された結果であり、違和感はないとも解釈された。なお、英国のヒンクリーポイントC並みのコストとすると5300億ドルになるとの試算がある。

以下原子力発電のコストについて解説する。

公式の発電コスト試算では原子力は統合再エネの3~6倍

政府系研究機関である豪州連邦科学産業研究機構(CSIRO:Commonwealth Scientific and Industrial Research Organisation)は、AEMOの協力を得て、毎年発電コスト試算「Gen-Cost」を発表している。直近は2024年12月であり、原子力や統合費用込の再エネを含め、試算している。図1は2024年と2030年時点の主要電源の水準であるが、再エネは統合費用込(with firming)でも最も低く、原子力は高い。原子力は、建設が禁止されているが、保守連合が主力と位置付けていることもあり、前回より試算に加わっている。

図1.豪州の技術別LCOE(均等発電原価)比較(2024年、2030年)

(出所)CSIRO  “GenCost2024-2025draft(2024年12月)”に数字・赤枠を加筆

統合再エネ費用は、2024年でも98-150ドルと最も低く、2030年は67‐137ドルとさらに優位となる。以下、コストの低い順に火力単独、太陽熱、大模原子力、CCS付き火力、SMRとなる。原子力は、統合再エネに比べて大規模で1.5~2.5倍、SMRで4~6倍と高く、リードタイムは15年で「2040年までに間に合わない」とする。

原子力発電コストの考え方を詳しく分析

保守合同はCSIROの発電コスト試算には不満を示し、「前提が間違っており、不当に高くなっている」と執拗に批判していた。今回は主たる批判である3項目に焦点を当てて、以下のように、詳細に分析・反論している。

・運転期間は30年ではなく60年可能:

⇒通常の発電コスト計算は、ファイナンスを考慮し30年間で比較する。原子力の改良工事は初期投資の1/3を要する。45年経過時の建替えコストは、安全基準の高まり等もあり大きくは下がらない。

・設備利用率は53~89%ではなく米国並みの93%可能:

⇒世界の平均は非民主国を含めて8割程度で、1割は60%以下。豪州は石炭火力で100年を超すベースロード電源としての経験があるが、平均で59%。

・運転開始までのリードタイムは15年ではなく10~15年で脱炭素に早く貢献:

⇒民主国家なかでも先進国の平均値を前提とすべき。関係者の殆どは15年で理解。

豪州は反トランプエネルギー政策を選択、世界の潮流は脱炭素が基本

 豪州の選挙結果は、示唆に富む。トランプ旋風に陰りが出る可能性がある。2025年4月30日のカナダ選挙と5月3日の豪州とは非常に似ている。有利とされた保守がトランプ関税の影響等で、リベラルに劇的な逆転を許した。首相候補とされた保守の代表は自身も落選した。エネルギー・環境政策は、トランプの登場でクリーン政策の退潮が予想されていたが、2030年再エネ82%を掲げる豪州労働党が圧勝し、「エネルギー国民投票」の結果、原子力の芽はほぼ完全に無くなった。カナダのカーニー新首相は、英国中央銀行総裁時に気候変動国連特使に任命された経歴があり、再エネ推進を掲げている。一連の主要国選挙結果をみると、トランプ旋風にも拘わらず、クリーンエネルギー推進の潮流は不変である。

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