No.2 大統領令から米国エネルギー政策を読み解く /初日に全てを提示

トランプ・エネルギー環境政策

エネルギ-政策研究所長 山家公雄

2025年1月20日にトランプ氏が大統領に就任し、まもなく1年が経過する。エネルギー・環境分野では、予想を超える大胆な転換が行われ、衝撃が走った。そのほとんどは就任日に発出した大統領令に盛り込まれている。包括的で曖昧にも見えたが、一つ一つ確実に実行に打ちしてきている。本稿は、第2次トランプ政権のエネルギー・環境政策について、就任演説と大統領令を改めてて読み解くものである。また、「トランプ政権のエネルギー・環境政策シリーズ」の第一弾である。

エネルギー・環境政策に関して、就任日(Day-One)に大方の予想を超える内容と範疇となる大統領令が発出され、世界が騒然となった。以下、就任演説とその直後にサインされた大統領令について解説する(表1)。

表1.トランプ大統領就任演説とエネルギー関連大統領令

(出所)トランプ大統領就任演説、大統領令等を基に作成

就任演説The Inaugural Address

(要旨)

エネルギー生産が抑制され価格が上がっている、旺盛な需要に応えておらずAI等重要産業の成長を妨げており「国家エネルギー緊急事態」を宣言する。世界で最も豊富な石油・ガス資源(黄金の液体liquid gold)の生産を増やし利用する。「ドリルベイビードリル(掘って掘りまくれ)」)を実践する。供給を増やし、エネルギー価格を下げて産業競争力のカギを握るAI等の電力需要を十分に賄うとともに、欧州・アジア等海外へ輸出し世界に貢献する。一方、EV支援策(マンデート)を取り消し「グリーンニューディール」を終焉させ、自動車産業を守る。そして市民生活を豊かにするために海外製品に関税を課す。

(解説)

第2次トランプ政権のエネルギー・環境政策は、ここに集約されている。就任演説直後に46件の大統領令等に署名するが、うち5件はエネルギー関連であり、予想を超える広範かつ厳格な内容となっている。

以下、各大統領を簡潔に紹介する。

国家エネルギー緊急事態宣言:Declaration A National Energy Emergency

(要旨)大統領の権限強化

前政権は国内エネルギー資源の開発を怠り、エネルギー価格は高騰し、エネルギーセキュリティや産業の国際競争に支障を来たした。敵対する国や地域は、米国市場を蚕食し国際市場のプレゼンスが高まったが、米国の海外依存度も高まった。潜在力が膨大な国内資源を使い国内に供給する。不安定で間欠的な(自然)エネルギーの拡大でグリッドの信頼性が低下している。次世代発電技術の開発も重要である。即座の解決対策が不可欠であり、ここに国家エネルギー緊急事態を宣言する。関連の連邦政府機関は、国有地の利用やインフラ、エネルギー、資源等の開発・整備事業を急ぐべく、法令上の緊急措置を特定し実行する。また、開発の妨げとなる環境規制を特定し緊急時の措置等について整理する。

(解説)

緊急事態宣言により、大統領および行政府の権限を強め、環境法令等による開発規制や地方政府の権限、個人の所有権を制限できるようにする。過去には1970年代のカーター政権による宣言があるが、オイルショックによる供給不足が背景にあり、関連州政府への権限に限定されていた。初の国家宣言であり、緊急事態たる条件を満たすのかという議論がある。また、自然変動電源(VRE)には否定的であり、開発すべきエネルギー資源を選別する意図が伝わる。

国内エネルギーの解放:Unleashing American Energy

(要旨)解放は石油ガス等で風力・EVは除外

豊富なエネルギー資源は米国の力の源泉であり、イデオロギーを含む規制により開発が抑制されてきた。石油・ガスや鉱物資源(ミネラル、ウラン等)を解放し再建する。国有地・水域での開発を進めて世界をリードし、経済・国内・国防のセキュリティ向上を図る。全ての連邦政府機関が、既存の規制・命令・ガイダンス・文書等に関し、開発する際に負担となる事項を迅速にレビューする。特に重視するエネルギー資源として石油、天然ガス、石炭、水力発電、バイオ燃料、重要鉱物資源、原子力エネルギー資源を挙げる。エネルギー省(DOE)は、中断されているLNG輸出事業の審査を直ちに再開する。

一方で排出基準、不公平な補助金、市場を歪めるEVマンデートを廃止し、市民が車を選択できるようにする。家電等への省エネ奨励措置を見直し、消費者が機器を選択できるようにする。「グリーンニューディール」を終焉する。インフレ抑制法(IRA: Inflation Reduction Act)およびインフラ投資・雇用促進法(IIJA:Infrastructure Investment and Jobs Act)による助成金等の支払いを停止し、本命令の主旨に沿うものか否かの判断を90日以内に行う。

(解説)

トランプ政権のエネルギー・環境政策を実行していくうえで最も重要な大統領令である。レビュー事項は広範かつ曖昧であるが、EV充電ステーション等名指している事項もある。石油・ガス等の開発すべきエネルギー資源を明示するが、風力と太陽光は除かれている。まず開発が停滞する事項の特定と対処案策定を命じ、その後に具体的な取り組みとなる。バイデン政権の金看板であるIRA等の支払い停止と90日間のレビューは、認定済みの既存事業にも影響が及びかねず衝撃は大きい。非常に広範かつ曖昧であり、直後に政府追加コメントが出される、訴訟が起こる等混乱を伴った。

国際環境協定でも米国第1に:パリ協定からの離脱

(要旨)

国連に、気候変動枠組み条約に基づくパリ協定から離脱する通告を直ちに行う。米国としてはこの通告をもって同協定からの離退が即時発効するものと見なす。

(解説)

パリ協定では、離脱の効力は離脱通知を受領した日から1年が経過した日以降に発効するとされている。前回も離脱したが、他国の追随は殆どなく、米国内では州等の地方政府、NPO、事業者等が推進役を担った。途上国への資金支援をはじめ今回の影響が注目される。

外洋大陸棚における洋上風力発電リースからの一時的な撤退と、連邦政府の風力発電プロジェクトに対するリース、許可慣行の見直し

(要旨)

内容は命令名の通りである。外洋大陸棚を洋上風力発電事業向けにリースする事業から一時的に撤退する。対象は新規リースであり、70GWの事業が落札されている既存事業への影響は小さい。問題は、既存洋上風力事業を含めて経済性、環境性等の再レビューを内務省(DOI)が行うことである。事業認定を受けている事業は17GWであるが、認定取り消しの可能性も否定できない。さらに陸上、洋上を問わず国有地・国有水域での開発は停止となる。

(解説)

洋上風力は抑制対象と言われてきたが、大統領覚書(メモランダム)にて名指しされた。再レビューを判断する際のキーパーソンは内務省長官のダグ・バーガム氏である。同氏は前ノースダコタ州知事であるが、同州は電力の36%が風力であり再エネへの理解もある。少なくとも認定済みの事業はセーフであろうと期待されたが、その後認定済みでも未着工の事業は再審査が宣告された。

12月8日に、マサチューセッツ州連邦地方裁判所は大統領覚書は、法的根拠欠如、行政手続法違反等により違法との判決が下された。しかし、既に遅延や損害が発生しており、先行きは不透明である。

アラスカ資源の膨大な潜在量を解放

北極圏の環境保護を理由に導入された開発規制を撤廃し、アラスカ州での石油・ガス開発を全面的に再開する。アラスカ産業開発輸出公社(AIDEA)による7区域でのリース契約を復活する。北極圏野生生物保護区(ANWR)での新規リースは一時停止されていたが、発効に必要な許可と通行権の付与を求める。アラスカ国家石油保留地(NPRA)における約40%を占める保護区域での新規開発を可能とする。

アラスカ州は、貴重な資源が豊富に埋蔵する一方で、200種以上の野生生物の生息地そして先住民族の居住地であり、開発と保護を巡り長年対立が続いてきた。今回は開発に振れることになる。

バイデン政権の大統領令等の廃止 

多くの既存大統領令等の廃止等がリストアップされているが、エネルギー・環境関連も多い。代表的なものとしては以下の通りである。

*キーストーンXLパイプライン認可の撤回(2021/1)

*国有地・水域における石油・ガス新規リースの停止(21/1)

*2035年までの電力脱炭素化、2050年までのカーボンニュートラル化(21/12)

* IRA実行のための金融措置(22/9)

*主要な湾岸・海域における新規石油・ガスリースの撤回(25/1) 

終わりに 初日のエネルギー関連の大統領令は全てを網羅する羅針盤

 本稿は、トランプ大統領のエネルギー政策について、就任初日に公表された演説、大統領令に基づいて、解説するものである。第2次トランプ政権は、エネルギー・環境分野について、この1年間で歴史的な大転換を推進してきたが、全ては初日の大統領令に盛り込まれていた。周到の準備の基に、一気にスタートダッシュしたことが改めて理解できる。実際に分断は進み、多くの訴訟が行われてきている。

本稿は「トランプ政権のエネルギー・環境政策シリーズ」の第一弾である。順に解説していく予定である。

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