No.6 自動車の効率性基準が大幅緩和される米国 3つの基準が骨抜きに

トランプ・エネルギー環境政策

エネルギ-政策研究所長 山家公雄

 トランプ政策の下で、EVに対する優遇措置は急速に縮小・廃止されている。2025年7月4日に成立した減税・歳出法により、EV購入に対する税額控除が2025年9月末で廃止になる。排出基準等も大幅に緩和ないし骨抜きとなる措置が打ち出されている。内燃機関自動車とEVとは政策上の差異が無くなってきている。基準見直しは今後訴訟に発展する可能性が高い。本稿は、米国自動車規制の制度設計と政策リスクを整理するものである。(本稿は2026年1月5日時点の状況に基づく)

トランプ政権はEVに最も厳しく対処

 トランプ政権は、大統領選挙期間中から、EV等クリーン自動車に関する政策支援を廃止する旨を強く訴えており、就任後短期間で具体策を矢継ぎ早に打ち出している。地球温暖化の影響と根拠を疑問視し、化石資源利用や消費者選択を重視する。石油等の業界が行った多額の寄付に報いるものと言われる。政策支援に関しては、7月4日に成立した「減税・歳出法」にて、EV購入に関する税額控除は9月末で廃止された。クリーンエネルギ-の多くは税額控除廃止・縮小となったが、EVの廃止時期は最も早い。

 運輸部門は、米国最大となるCO2排出分野であり、約3割を占める。米国では連邦レベルで3種類の排出・燃費等の自動車規制が存在し、燃費の効率化や排出削減に貢献してきた。環境保護庁(EPA)のCO2排出規制、運輸省道路交通安全局の燃費規制そしてカリフォルニア州のZEV規制であるが、相次いで大幅な緩和ないし廃止が導入されている。以下、順に解説する(表1)。

表1.米国の自動車規制と緩和・取消しの経緯

 (出所)各種資料を基に筆者作成

環境保護庁(EPA)の排出規制:温室効果ガス危険性認定を否定し無効化を図る

 EPAは、大気浄化法に基づき温室効果ガスの排出を規制する権限を持っており、自動車の排出ガスについてマイル当りCO2排出量を規制している。運輸部門は米国で最大のCO2排出分野であり、排出削減の柱となっている。現状は、2021年12月に制定された2021~2026年の基準値が適用されているが、2027~2032年については2024年3月に規制案が制定されている。2024年規制は、2030年でEVが5割を占めるとの前提で、2026年目標値の161g/miから2032年85g/miへ50%減の大幅な削減を求めている。排出規制は、違反した場合の罰則は設けられていないが、リコールが要請される可能性がある。

 トランプ政権は、一貫してEVに関して厳しいスタンスで臨んでいる。米国では、環境規制の根本規定として、温室効果ガスは大気浄化法に基づく「危険性認定(Endangerment Findings)」があるとしている。トランプ政権は、この否定を企てており、実現すれば自動車、火力発電所、石油ガス生産設備等に課される排出規制の根拠が消滅することになる。

 危険性認定は、2007年に最高裁判所にて「EPAは大気浄化法にて検討する義務がある」との判決が出たことを受け、2009年にオバマ政権が認定しことが出発となる。EPAは、これを根拠に自動車、発電設備等に規制を導入してきている。

 第2次トランプ政権は、2025年1月20日の大統領令「アメリカエネルギーの解放」にて危険性認定の見直しを強く指示し、EPAは3月12日に見直すことを公表した。そして7月29日には正式に取消しを提案した。8月1日には、自動車排出規制の見直しと合わせて官報に記載された。パブリックコメントは9月22日に終了している。現在、提出された膨大なコメントの審査および最終規則(Final Rule)の策定段階にあり、2026年早々にも決定する見通しである。取消しが決定される場合は、環境グループ等からの提訴は確実であるが、決着には長期間を要する。

運輸省道路交通安全局の燃費規制(CAFÉ):罰金廃止で事実上無効化

 運輸省道路交通安全局(NHTSA: National Highway Traffic Safety Administration)は、1975年エネルギー法に基づき企業別平均燃費基準(CAFÉ:Corporate Average Fuel Efficiency)を所管する。CAFÉは、新車のガロン当たり航続距離の平均値をメーカーごとに適用し、違反した場合に罰則を科している。ステランティスは、2019年と20年に1億9070万ドルの制裁金を支払っている。

CAFÉは、2025年1月20日発出の大統領令で見直し候補に挙げられた。取り消すべき既存大統領令の一つにCAFÉが名指しされ、「アメリカエネルギ-の解放」ではEV関連の規制見直しが盛り込まれた。ショーン・ダフィー運輸長官は、1月28日にNHTSAに対して2022年以降のモデルについてCAFÉの再考を指示した。7月4日に成立した「減税・歳出法」において罰金が廃止される規定が盛り込まれたが、事実上の骨抜きと言える。7月16日にNHTSAは、2022年式モデルまでの3年間に関し、最終決定を行っていない年度について罰金を課さないことをメーカーに通知した。12月3日に基準を大幅に下げる提案を発表した。

カリフォルニア州のZEV規定:法律上の効果否定

大気浄化法は、EPAに自動車に関する排出規制権限を付与しているが、カリフォルニア州は、例外的に連邦政府の規制を超える規定を定めることができ、大気資源局(CARB:California Air Resources Board)が所管する。同州は連邦政府に先立って排出規制を実施した経緯があり、適用免除が認められている。同州の規制は他州も追随でき、現在ワシントンDCを含む10州が採用している。但し、新しい規制はEPAの了解を得る必要がある。

 現在の規制は、2022年に導入されたアドバンスト・クリーン・カーⅡ規制(ACCⅡ)であるが、CV(Clean Vehicle)比率と有害物質排出規制から成る。CVはEV、PHV、FCVのことであるが、2026年に35%以上、2030年60%、2035年100%(EVは少なくとも80%、PHVは多くとも20%)を義務付けている。2024年12月に(バイデン)EPAは適用免除を認めている。

 トランプ政権は、カリフォルニア州の厳格な規制を問題視しており、適用免除の権限を取り消した。議会審査法(CRA:Congressional Review Act)に基づき両議会で採択されれば、既存ルール廃止が可能となるが、これを利用した。2月14日に(トランプ)EPAが議会にACCⅡ等の取消し方針を伝達(transmitting)し、5月1日に下院で、5月22日に上院で決議され、6月12日にトランプは共同決議に署名した。同日、カリフォルニア州の司法長官は10州の司法長官と連携して、EPA長官を相手取りカリフォルニア連邦地裁に提訴している。

議会審査法による取消しは、連邦政府の規制を対象としており州政府等の規制は対象外、と見做されてきた。手続き上、会計検査院(GOA: the Government Accountability Office)および上院議事規則管理者(the Nonpartisan Senate Parliamentarian)の意見を聞く必要があるが、どちらも取消しには反対した。両者の意見に強制力はないが忖度されるのが通例である。

環境派は強く反発、自動車業界は微妙、訴訟は必至

こうした自動車排出規制等の緩和に関しては、環境派は猛反対、石油業界等は賛成だが、当事者である自動車業界は微妙である。現行の排出、CAFÉ、ACCⅡ等の規制は非常に厳しく、EV販売が不調となっている中で、緩和が必要と訴えていた。一方で、既に多額のEV化投資を実施しているメーカーも多く、5年毎のモデルチェンジを実施するには規制値が必要との認識がある。また、頻発する環境訴訟に対して規制は反論の根拠となりうる。いずれにしても3つの規制の統合を要望している。排出規制等の抜本変更については、裁判での決着となる。

日本自動車メーカーには追い風、問われるBEV戦略

 関税措置に翻弄される日本自動車メーカーであるが、規制緩和は基本的に追い風となる。昨年来BEVが伸び悩むなかで日本メーカーが得意とするHEVは好調であるが、このトレンドが一層助長される。但し、世界的にはBEVは普及しており、IEAは新車乗用車におけるBEV+PHVの割合は18%(2023年)→22%(24年)→25%(25年)と予想している。米国内でBEVへの投資魅力が薄れる中で、どのようにBEV戦略を構築していくかが問われることとなろう。いずれにしても、最も傷つくのは“中途半端にEV化した企業”となる。

 

キーワード:トランプ環境政策、アメリカ、自動車規制 

山家公雄  略歴

1956年山形県生まれ。1980年東京大学経済学部卒業後、日本開発銀行(現日本政策投資銀行)入行。電力、物流、鉄鋼業界等の担当を経て環境・エネルギー部次長、調査部審議役等を歴任。2009年エネルギー戦略研究所㈱取締役研究所長、2012年山形県総合エネルギー政策顧問、2014年京都大学特任教授、2025年(一財)海外投融資情報財団に就任。2023年10月より現職。主な著作に「再生可能エネルギーの真実」、「日本の電力改革・再エネ主力化をどう実現する」「テキサスの電力市場・電力システム」などがある。

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