No.5 トランプの環境政策 排出規制の根源を廃し歴史的に大転換

トランプ・エネルギー環境政策

エネルギ-政策研究所長 山家公雄

トランプ政権は、就任日の2025年1月20日にパリ協定離脱、米国エネルギ-解放等の大統領令を発した。7月4日にはクリーンエネルギー制度の多くを廃止・縮小する「減税・歳出法」が成立した。

温室効果ガス排出削減等の環境政策でも、大胆な規制緩和を進めている。3月12日には歴史的と言われる包括的な規制抜本見直し方針が、7月29日には温室効果ガス排出規制の根拠となる「危険性認定」を廃止する方針が発表された。米国の環境政策はまさに歴史的な転換点にある。本稿は、大統領令・環境保護庁(EPA)の権限行使・議会との関係から最も蓋然性の高い環境政策展開を整理したものである。

1.大統領令「米国エネルギー解放」で環境規制を再編

トランプ政権のエネルギー政策は、「アメリカ第一主義」を掲げて国産化石資源の開発、製造業の国内回帰、AI等戦略産業の成長を目指して関税政策を駆使し規制緩和を推進する。「ドリル、ベイビードリル(掘って、掘って掘りまくれ)」に象徴される化石資源の積極開発を基礎とする。有害物質を削減する環境規制・ルールは、環境推進派の企みにより過度に厳しくエネルギー開発を妨げコストを引き上げており、緩和・廃止を進める必要がある、とする。

大統領令「米国エネルギー解放」はEPAが最大標的

大統領就任1日目の1月20日に「パリ協定離脱」、「国内エネルギー緊急事態宣言」等の大統領令を発したが、具体的な国内措置については「米国エネルギー解放」にて、詳しく記述されている。特にEPAの規制が標的となっており、実現すると米国の健康保護や温暖化対策が大きく後退することになる。主要なものを以下に列挙する(登場順)。

・排出規制、補助金等の「EVマンデート」を廃止する。

・全ての機関は開発等の負担となる全ての規制を審査し、30日以内に該当する規定に関するアクションプランを報告する。

・EPA長官は、炭素の社会費用(SCC:Social Cost of Carbon)基準の問題点に係るガイダンスを60日以内に発する。その際、許認可・規制を判断に係るSCCルールの除外も検討する。

・EPA長官は、温室効果ガス(GHG)の危険性認定(Endangerment-Findings)の合法性とそれに基づく規制の継続性について、30日以内に提言する。 

・全ての機関は、インフレ削減法(IRA)とインフラ投資・雇用法(IIJA)に関連する事業の支出を凍結し、政策の方向に適するか否かを90日以内に判断する。

 「GHG危険性認定」は発電設備、自動車、石油・ガス生産設備に関する排出規制の根拠となるもので、これが否定されるとEPAは排出規制をできなくなる。SCCは、設備投資等の際に炭素コストを重要な判断基準とするもので、バイデン政権時に全省庁を挙げて取り組み、190ドル/CO2tと試算している(オバマ政権では51ドル、第1次トランプ政権では1~6ドル)。IRA事業等の支出即時停止と適正評価については、全省庁に跨る命令であるが、EPAのグリーンファンドが最大の標的となった。

また、連邦組織大幅スリム化を図る大統領令も出ており、「アメリカのエネルギー解放」と合わせてEPAの主要部署の廃止や人員の大幅削減等も大きな標的となる。「急進的で無駄なDEI(多様性、公平性、包摂性)プログラムおよび選好の終了(1月20日発)」 および「大統領の『連邦政府の効率化方針』の実行を確認する(2月19日発)」であり、EPAを標的とした以下の記述が登場する。貧困層の環境を守る「環境公正Environment-Justice」は大きく扱われている。

・政府機関は、60日以内に、法令の最大範囲で、全てのDEI、環境公正に係る組織、計画、助成措置等を終了する。

・政府機関は、60日以内に全規制をレビューし、改善すべきリストを提出する。

EPA長官の方針表明 環境との両立に疑問

大統領令にて環境政策の抜本的再編が予想される中で、多くの具体的な環境規制はどのように見直されるのか、リー・ゼルディンEPA長官は、2月4日に基本方針「米国の偉大な復活を推進する:Power the Greate American Comeback」を表明した。ゼルディン氏はニューヨーク州選出の共和党下院議員で、トランプ大統領と活動の場が一緒である。弁護士でNY州内の再エネ事業には理解があったとされるが、EPA長官に抜擢された後はEPA活動を大幅に縮小する役割を演じ、閣僚の中で目立つ存在になっている。

長官方針では、国民の健康を守るというEPAの基本方針を堅持しつつも米国産業の復権、エネルギーコスト低下、自動車や機器の選択自由、AIの産業化等に寄与するという視点でまとめている。「国民健康を守る」以外はいずれもトランプ政権の方針に沿う。1番目の健康とそれ以下の項目は両立するのか、という疑問が生じる。これについて長官は「米国の環境技術は優れており世界的に排出等の水準は大きく改善し低くなっている。規制緩和による成長と環境維持は両立する」と説明する。大統領令とEPA長官方針を根拠に、主要な環境規制を大幅に緩めるあるいは廃止する方針を決めていくことになる。以下、時系列に沿って解説する。

2.EPAに大ナタ、組織リストラと「温室効果ガス危険性認定」の否定

EPA歳出65%削減、重要組織の廃止と人材解雇

2月26日、トランプ大統領は、EPA職員を65%削減できると発言した。ゼルディンEPA長官からの提言であるが、その後65%削減は人員でなく歳出であると訂正された。削減できる根拠であるが、まずIRA事業の削減である。規制官庁であるEPAの予算規模は通常は年間100億ドル程度であるが、IRA事業として270億ドルの「GHG削減基金(グリーンファンド)」が別途予算化されている。大統領令によりIRA事業の支払いが凍結され再審査されることとなったが、このグリーンファンドは制度が曖昧で民主党関連組織に配られているとして、やり玉に挙がった。3月5日に低所得者の太陽光発電設置を対象とするSolar-for-All事業70億ドルは凍結を解除する、しかし3月11日に残りの200億ドルは事業を終了するとの方針が出された。グリーンファンド凍結に関しては、多くの訴訟が行われている。

また、2月4日のEPA長官発表のタイミングで、人員を大幅に削減する方針が明らかになる。科学的知見に基づき政策決定に携わる部門や環境正義関連部局を廃止する方針が示された。連邦政府のスリム化、差別化措置の廃止を進める大統領令が別途出ており、これに沿う。3月17日には、EPA頭脳の集まりである「研究開発室」を大幅縮小・機能移管し、最大で同室の75%に相当する1155人の化学、生物、薬学等の研究者を解雇する方針を検討するとされた。環境規制の基礎となるエビデンスを追求し、規制を執行しモニタリングするうえでも不可欠であり、廃止により環境行政そのもの力量と持続性が大きく低下することになる。

GHG規制の根拠「危険性認定」を見直す

最大の激震は、GHG排出規制権限を見直しする方針が明らかになったことである。EPAはGHGを有害物質として規制する権限があり実際に自動車、発電所、化石資源生産を対象に行使している。共和党は、EPAにGHGを規制する権限があるかは明確ではなく、少なくとも議会の承認なしに行使できないとの立場をとる。排出規制権限の根拠は「大気汚染の一因になることの認定(危険性認定:Endangerment Findings)」であり、これに真っ向から切り込もうとしている。

GHG危険性認定については、大統領令にて、EPA長官は2月19日までにその合法性についてホワイトハウスに提言しなければならない。2月26日の「EPA歳出は65%削減可能」の提言もあり、ゼルディン長官は「危険性認定の根拠を問う」と提言をしたとの噂が広まった。

GHG危険性認定は長年化石資源派(共和党)と排出削減派(民主党)との間で大きな論争となってきている。2007年に連邦裁判所は、EPAはCO2や他のGHGが「汚染物質」に該当するかどうかを判断する義務がある、と命じた。2009年のオバマ政権は危険性を認定し、2010年に規制を開始している。

司法の場での激しい論争が予想されるが、環境派はGHGによる災害は年々巨大化している、従来の判決では繰り返し認められていることから危険性認定が覆ることはあり得ないとする。一方非環境派は、ユビキタスなGHGについて特定設備を原因とするのは無理があり、少なくとも行政機関であるEPAに広く規制する権限はないとする。

以上のGHG危険性認定の見直しとその規制、研究開発や環境正義関連部局の廃止縮小は3月12日の規制緩和に係る包括的な方針に盛り込まれた。この規制緩和方針について次節で解説する。

3.環境規制緩和方針の全貌 3月12日発表の衝撃

1時間半で31の主要規制緩和を発表

3月12日に、EPAは31の規制を見直す方針を決めた。約1時間半という短い間に21の関連発表を矢継ぎ早にホームページに掲載した。ゼルディンEPA長官は、「米国史上最大かつ最も重大な規制緩和の日だ」と語った。かねてより論争のある重要な規制や組織はほぼ網羅されており、実現されれば環境政策は抜本的に変わる内容だ。環境団体は「環境の歴史で最悪の日だ」と嘆いた。

最初にHPに掲載されそして全体を一覧できる発表は「EPA Launches Biggest Deregulatory Action in U.S. History」であり、温室効果ガス、大気、水、固定設備(事業所)、移動設備(輸送手段)に係る規制はもちろん組織・人材削減も網羅する計23項目を挙げた。これらは国内エネルギー開発を促す「米国エネルギーの解放」、エネルギーコスト低下を促す「米国家庭の生活費削減」、連邦政府間や州政府等との協力により解決を急ぐ「協力的連邦主義の推進」に3分類されている(表参照)。

表.米国環境保護庁(EPA)の規制緩和等方針 (2025年3月12日公表)

(出所)米国環境保護庁(EPA)発表を基に作成  「項目」の番号は筆者加筆

大統領令のスケジュールを睨む

3月12日というタイミングは、就任1日目の1月20日に出た大統領令「米国エネルギーの解放」で明記されたスケジュールを睨んだものである。同令では「GHGの危険性認定とそれに基づく規制」は30日以内に提言する(表の2-2)、炭素の社会費用(SCC:Social Cost of Carbon)基準は60日以内に排除を含めてガイダンスを発出する(表の2-8)としている。そしてIRA等事業の支出凍結と政策の方向に適するかの判断に90日としている。別の大統領令「急進的で無駄なDEIプログラムの終了」、「連邦政府の効率化方針の実行確認」関連は表の2-9、2-10である。

また、表は論争のある環境規制を網羅しており、「公約実行」のトランプ政権ではある程度予想がつくものではある。そのなかでGHG排出規制関連(表の1-1、1-2、1-4、2-1、2-2、2-8)、組織再編関連(2-9、2-10、3-4)が目立つ動きとして注目される。

発電と石油・ガスを主に規制撤廃へ

 ここで、改めて表をみてみる。バイデン政権が重視してきた規制がほぼ軒並み見直しの対象となっていることが分かる。対象事業としては火力発電、石油・ガスが目立っている。以下、主な規制項目を解説する。下線はその後の正式ないし具体的な方針を表明したもので、パブリックコメント等の手続きを経て最終決定となるが、決定される場合は訴訟が予想される。

(1-1)火力発電に対するGHG規制

2024年4月、バイデン政権下のEPAは火力発電のCO2排出規制に関する最終案を発表した。石炭と設備利用率40%以上新設ガスについて、2032年までに90%削減を義務付けるが、これはCCS設置を前提とした水準である。ガス火力業界は「CCSは商業設備の実績がなく厳しい条件」と懸念を示している。EPAは、6月11日に廃止する方針を正式に提案した

(1-3)火力発電の水銀・大気有害物資基準

 石油・石炭火力発電を対象に、水銀等の有害物質排出を制限する規定。2012年に導入されたが、2024年5月に強化され、有害金属排出量を67%削減、水銀排出量を70%削減することを義務付けた。EPAは、6月12日に2024年に強化された規制について廃止する方針を表明した

(1-4)GHG報告プログラム

2010年1月より特定の発生源を含む施設、規定量を超えて排出する施設は報告義務が課されている。2023年は、8,100を超える産業施設が報告しており、前年比約4%減となった。最大の固定排出源である発電所は約15億トンで7.2% の減少、石油・天然ガス関連施設は3億2,200万トンで1.4%増となっている。2025年9月に廃止する規則案が発表される

(1-5)汽力発電の排水制限

排水制限とは、汽力発電等の廃水に制約を課すものであり、水浄化法(Clean Water Act)の下でガイドライン(ELG:Effluent Limitations Guidelines)が設けられている。1974年に制定されたが、オバマ政権時代の2015年に改定され、連邦政府として初めて有毒金属含有量を制限した。発電所等は、排水に含む有毒金属、栄養素、汚染物質などの量を合計6.4億kg削減することが義務付けられる。トランプ政権は、司法の場で係争中であり結着がでるまで当面同ルールの遵守期限を延期する方針を表明した。10月2日には遵守期限の2029年から2034年へ5年間延長を提言したが、反対により撤回し、別途の案を検討している

(2-1)自動車排出ガス規制

バイデン政権のEPAは、2024年3月に、乗用車と小型トラックを含むライトビークル(LDV)と中型車(MDV)の2027~2032年モデルを対象とした、温室効果ガスと大気汚染物質の排出基準に関する最終規則を発表した。LDVのCO2排出基準値は、最終年に当たる2032年モデルで、業界平均1マイル(約1.6キロ)当たり85グラム(85gpm)とした。現行規則の最終年に当たる2026年モデルの基準値は168gpmであり、削減率は約50%となる。MDVのCO2排出基準は、2032年モデルで74gpmであり、2026年モデル比の削減率は44%となる。8月1日に撤回案が発せられた。

(2-2)2009年温室効果ガスの危険性認定

前述。EPAは、7月29日に廃止する方針を正式に提案した。

(2-8)「炭素の社会的費用(SCC)」の精査

前述。SEC(証券取引委員会)は、3月27日に公式に裁判での防衛を放棄した。ホワイトハウスは、5月5日のメモで連邦機関に対して原則SCCを配慮しないことを命じた

(3-1)良き隣人計画の終了

「良き隣人プラン」は、川上に位置する23の州において、発電・工業施設からのオゾンに影響を及ぼす窒素酸化物(Nox)の排出を減らすことを義務付けるものであり、2023年3月に発出された。対象は、設備は石炭・石油・ガス・汽力発電、時期はNoxが生じやすい5~9月である。2021年から27年までに50%削減することを目標とし、2024年より対策が始まる。12月15日に無効化する提案が発出された。

最後に 歴史的な転換だが、最終決着には時間を要する

 トランプ政権はかつてない大規模な環境規制緩和案を提示し、国民健康への影響が懸念されている。特に「GHG危険性認定」の否定は自動車、発電所、石油ガス設備の排出規制の基礎となるものであり、歴史的な転換となる。一方、環境規制緩和による火力発電普及については、再エネの競争力は強く実現は容易でないと考えられる。規制廃止は個別事業の環境訴訟リスクが高まると懸念する事業者も多い。いずれにしても法令・規則の改編そして訴訟に長い時間がかかることが予想される。引き続き今後の展開が注目される。

キーワード:トランプ政権、アメリカ、環境政策、

山家公雄  略歴

1956年山形県生まれ。1980年東京大学経済学部卒業後、日本開発銀行(現日本政策投資銀行)入行。電力、物流、鉄鋼業界等の担当を経て環境・エネルギー部次長、調査部審議役等を歴任。2009年エネルギー戦略研究所㈱取締役研究所長、2012年山形県総合エネルギー政策顧問、2014年京都大学特任教授、2025年(一財)海外投融資情報財団に就任。2023年10月より現職。主な著作に「再生可能エネルギーの真実」、「日本の電力改革・再エネ主力化をどう実現する」「テキサスの電力市場・電力システム」などがある。

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